『3月のライオン 後編』:棋士たちのドラマの中に見えてくる普遍的な人の強さを問うた物語。前作はあまりよくなかったが、その悪い部分を後編でだいぶ回収された作品。。

3月のライオン 後編

「3月のライオン 後編」を観ました。

評価:★★★★

零が川本家と出会って1年後、再び獅子王戦の季節がやって来る。最初は戸惑っていた零だが、今では川本家の3姉妹と普通に食卓も囲んでいた。しかし、零の義父である幸田柾近が引きこもりとなっていた長男・歩に突き飛ばされて入院し、獅子王戦を不戦敗となってしまう。長女の香子も仕事も続かず、不倫相手のプロ棋士・後藤への想いをつのらせていて、幸田家のほうは崩壊の危機に瀕していた。一方の川本家のほうも次女のひなたがクラスメイトをいじめから救ったことで、逆に自分がいじめの標的にされてしまう。そんな最中、家を出ていった3姉妹の父親が突然帰ってくるなど、川本家のほうも大きなトラブルを抱えようとしていた。様々な棋士たちの想いを抱えながら、獅子王戦は進んでいくのだった。。羽海野チカ原作の将棋を題材とした同名コミックを「るろうに剣心」シリーズの大友啓史監督、「君の名は。」の神木隆之介主演で実写映画化した2部作後編。

前編から期間をあまり置かずに公開となった2部作の後編。前編のほうの感想文では、映画としての一本筋を作らずに原作コミックのエピソードを複数ただ追っているだけという点を評価として低くしましたが、後編では前編でそうしたただ流していた複数エピソードをまとめる方向に動いているので、前後編を合わせて、ようやく作品が1つのまとまりを見せてきたのです。なので、特に零が育ってきた幸田家、そして、これから共に未来を作ろうとしている川本家に絡んでくるエピソードが胸を迫るものになってきたと思います。家族を交通事故で一度に失い、運命のなすべきまま、将棋で生きるしかなかった幸田家での日々。その中で必死過ぎたからこそ、逆に幸田家の不和を誘ってしまった厳しい現実。逆に、これから生きようとしてきた川本家のほうも見た目ほど完璧でもないという現実。でも、零にとってはこんな自分でも支えてくれようとしてくれた川本家の人たちに何とか報いようともがいていく。川本家のために男になった零にとって、逆にそれは幸田家での日々を省みて、そこでも何とかできないかと考える大人の男へと成長していくことになるのです。

作品を見ていて思うのは、ここで描かれることはプロ棋士という特殊な世界とも思えるけど、実際は誰しもが悩み答えが出ない、家族の問題であったり、自分の問題であったりするのです。エピソードとしては父親であったり、不倫であったり、いじめであったり、引きこもりであったりと、いろいろな形で象徴されるわけですが、その人生種々の問題は教科書のような明確な答えが用意されているわけではない。もはや家庭の数だけ、人の数だけ、それぞれの問題は違うわけで、その解決法は自分で決断し、もがきながらも見つけていくしかないのです。でも、その中で真実だなと思うのは、人に対する優しさの見せる強さというもの。僕が特に素敵だなと思うのは、零が引きこもりの歩にかける言葉であったり、川本3姉妹が父親に語りかける惜別の想いであったりというところ。やはり不器用な生き方しかできない人であっても、こうした優しさは強さになるなと思うのです。

いびつであった前編を回収していく後編は、近年の前後編ものでは珍しく後編がよかった(大抵は前編のほうがいいのですが。。)作品となりました。それでも、ひなたのいじめ部分であったり、後藤以外の棋士たちのエピソード(島田、二海堂らのものが特に、、)が薄っぺらいなと思わざるのを得ないのは、やはり残念な部分でもあります。。

次回レビュー予定は、「追憶」です。

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