『追憶』:ベテランスタッフの昭和風演出術は安牌過ぎて、いささか作品が退屈になっている。。映画の雰囲気は悪くないだけに残念。。

追憶

「追憶」を観ました。

評価:★★

幼少期を共に過ごした少年3人、四方篤、川端悟、田所啓太。彼らは幼くして両親を亡くしたり、捨てられたりと、ほぼ孤児のような形で育ってきた。そんな幼い3人をやさしく見守ったのは、軽食喫茶「ゆきわりそう」を営む仁科涼子と彼女に好意を抱く山形光男の2人だった。しかし真冬のある日、涼子に迫った危機を救うべく少年3人が起こした行動がとんでもない事件を引き起こしてしまう。その事件を機に離れ離れになっていた3人が、ある一つの殺人事件によって刑事・被害者・容疑者として、25年ぶりに再会することになる。殺人事件の真相、そして心に蓋をしてきた忌まわしい25年前の過去と対峙していく。。監督・降旗康男、撮影・木村大作のコンビ15作目となるヒューマンサスペンス。

降旗康男と木村大作と組むと、あとは亡き高倉健が加われば、名作「鉄道員(ぽっぽや)」のトリオとなった降旗組の作品。高倉健亡き後、今回はそんなベテランスタッフに今をときめく若手・中堅俳優たちが挑むという形の作品になりました。ただ、話がひどく古臭いうえに、良く言えば味がある、悪く言っちゃうと昭和風の演出もあいまって、THEクラシカルともいえる雰囲気になってしまったのが、個人的になんとも残念なところです。古臭いという部分も、逆に突き詰めていくと良い面にひっくり返るような場合もあると思うのですが、降旗監督の盤石ともいえる守りなベテラン演出だとそういう期待感は薄め。例えば、同じカメラ・木村大作で手がけた2012年の「北のカナリアたち」(阪本順治監督作)なんかも、お話としてはやや昭和なサスペンス劇ですし、吉永小百合主演で昭和感が満載になりそうな感じなのですが、役者の演じどころをうまく後半の物語の核となるところまでうまく引っ張っていく物語のつくり方と演出術が見事で、魅せる作品にしていたのとは対象的だなとも思ったりしました。

サスペンスとして、昭和な見せ方だと特に思うのは、例えば、関係者の証言をもとに、そのままそのエピソードを膨らませて絵を作ってしまうところ。こうした演出は観ている側にとっては、物語の筋を追いやすくて分かりいいのですが、映画らしくする演出というのは逆に物語の重要な部分をあえて見せないこと、観客の想像力を掻き立てるような、あえてそのものを直接描かないということだと思うのです。特に、サスペンスはそれが重要。サスペンスの雄、ヒッチコックの名作を見ていても、あえて犯人であったり、犯行現場を見せなかったり、逆に非現実的なデフォルメをして、物語の時間軸とをあえてずらすような工夫をするのです。現実には何が起こったんだろう、アレとソレはどうつながるんだろう、、と観ている間にいろいろと観客に考えさせることが真髄であって、誰にでも分かりやすいような安い2時間サスペンスドラマのような演出はいらないのです。

と厳しいことを書きましたが、あくまで中心のサスペンスの演出が不満なだけであって、ヒューマンドラマとしてはなかなか見応えある物語を作っていると思います。特に主演となる四方篤役の岡田准一は、「海賊とよばれた男」でもそうでしたが、アイドル俳優から一歩も二歩も奥行きのある演技ができる俳優にレベルアップしたなと強く感じました。対して、涼子役の安藤サクラは彼女の演技の力量から見ると、涼子というキャラクターは少し役不足かなと感じてしまいました。

次回レビュー予定は、「人生フルーツ」です。

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