『君の名は。』:個人的にはもう少しテーマの深掘りが欲しいが、新海監督作の特徴ある部分がよく出た作品!

君の名は。

「君の名は。」を観ました。

評価:★★★☆

山深い田舎町に暮らす女子高生の三葉は、ある日、自分が東京の男の子になる夢を見る。山の奥深くに祖母と妹との三人暮らしをしていた三葉は、村長として村を取りまとめる家を出た父親や、村に伝わる古い風習に嫌気が差しており、男子高校生になった戸惑いはあるものの、夢の中での都会の生活を満喫していた。一方、東京で暮らす男子高校生の立花瀧も、行ったこともない山奥の町で自分が女子高生になっている夢を見ていた。マンションで父親と二人暮らしをする瀧は現代的な都会っ子であり、バイト先の奥寺先輩に密かな好意を抱いていた。千年に一度の彗星が瞬く下で、一組の男女の夢は現実とつながっていくのだった。。「星を追う子ども」、「言の葉の庭」などの作品で知られる新海誠監督によるオリジナル長編アニメ。

映画感想文は約1ヶ月遅れくらいで書いていますが(笑)、この感想文を書いている段階で、興収100億を突破した(2016年9月末時点)というスマッシュヒットを叩き出している作品。僕は前に関西に住んでいる頃からなので、約12年ほど新海監督の作品を劇場でリアルタイムに観させてもらっていますが、これほどまでにお客が入っている中での鑑賞(平日夕方でしたが)は初めてでした。応援している監督さんの作品ヒットは、ようやく世間に知られることの嬉しさと、これで悠々と劇場で見れなくなったか、、という悲しさもありますが、とりあえず純粋に嬉しいです(笑)。本作も、新海監督作を知らない人にはオススメの入門作になっていると思います。

新海監督のテーマは初期の作品から一貫しています。それは「男性と女性との出会いにより、生まれる愛と別れのドラマ」だと思っています。その一貫したテーマの中でも作品の傾向として、2つのタイプがあり、1つは「雲のむこう、約束の場所」や「星を追う子ども」のようにどこか現実離れした異世界の中で育まれる愛の形と、もう1つは「秒速5センチメートル」や「言の葉の庭」のような現実に即しながらも、男女の出会いによって映し出される愛の世界の形です。前者は世界が先にあり、愛の物語が後に来る。後者は愛の物語が先に来て、そこから世界が投影されるという形。抽象的過ぎて分からないかもしれないですが、実際に見てもらうとそういう2つのタイプで作品が展開されているのです。そういう目線で本作を見ると、主人公2人のそれぞれの世界で展開されるドラマは現実であるので、上記の分類でいくと後者のように思われるのですが、ストレートに愛の物語は展開されず、後半の物語に潜む秘密が展開されると、実は前者に寄った形だとも分かる。それでもラストで再び後者のような形に戻ってくるので、実質本作はちょうどよい形で、新海監督作の持つ2つのタイプを混合した作品ともいえるかもしれません。

その中で良いのは、三葉が社の末裔で、主人公たちを隔てる世界自体の根源を、村に伝わる古い風習になぞらえたことでしょう。主人公2人の後半の出会いをつなげる結節点として、この展開はうまく効いている、、、とは思うのですが、風習自体の意味合いなどは少し宙ぶらりんのまま終わってしまっているので、ここは例えば、「千と千尋の神隠し」の宮崎監督のように、ちゃんと風習と物語自体をもう少し溶け込ませるような工夫が欲しいかなと思います。個人的には、住んだことがあり、よく遊びに行った新宿(西新宿?)〜代々木付近の雰囲気が伝わってくると、生まれた地の岐阜(といっても、縁遠い飛騨市付近らしいですが)が舞台として設定されているところが嬉しいところ。新海監督の過去作品に比べ、すごく分かりやすい物語になっており、「バケモノの子」の細田監督のようなスピーディーさを持った演出も、少しメジャー系公開を意識したような粋な形になっていたかなと思います。

本作で、新海監督作品の良さを分かっていただけた方は、是非過去作品も観て欲しい(上記した4作品がオススメ)と思います。愛の物語と様々な世界を融和して描くところは見事の一言。この描き味は今後も続けてほしいなと思います。宮崎監督や細田監督に近づくには、あとは中高年層にも理解される作品作りが求められますが、、、そこは、まずは考えず、監督らしい作品作りを今後も進めて欲しいなと思います。

次回レビュー予定は、「鷹の爪8 吉田くんのXファイル」です。

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