『ストリート・オーケストラ』:教育映画としてはかなり異色な作品。生徒目線か、教師目線かで感じる部分が違う作品。

ストリート・オーケストラ

「ストリート・オーケストラ」を観ました。

評価:★★

交響楽団のオーディションに落ちたヴァイオリニストのラエルチ。音楽仲間と一緒にやっている室内楽のほうもうまく行かず、人生の壁にぶち当たっていた。とりあえずの収入を得るために、スラム街の学校でヴァイオリンを教えることになる。しかし、そこにいたのは楽器の持ち方も知らない生徒たちだった。サンパウロ最大のスラム街で、子供たちの交響楽団が誕生するまでの実話に基づくドラマ。監督は、「セントラル・ステーション」で助監督を務めたセルジオ・マシャード。

先日、「奇跡の教室」では鉄板系の教育ドラマだと感想文に書きましたが、同じ教育系の映画としてみると、本作はかなり異色かもしれません。もちろん、教える先生がいて、落ちこぼれ組の生徒がいて、オーケストラとして美しい音楽を奏でようという1つの目標に向かっていく、、というスタンスは変わらないのですが、本作はかなり教師であるラエルチによった形で描かれます。オーディションでの失敗、音楽人生に感じる限界と絶望という主人公の主観が作品のかなりを占めており、そんな失望の最中にいる彼が、再び音楽家として再生していく過程の中で、スラム街のオーケストラというのが位置づけられる。生徒たちのほうにもドラマはありますが、終盤の展開まで、ラエルチ視点で描かれることに、好き嫌いは少々別れるかと思います。

とはいいつつも、ラエルチ自身も自分のことしか考えない自分勝手なキャラクターではありません。自分の持っている能力を最大限生徒に与えようとしていくし、中盤で予告編にも視座される”ある悲しい事件”をきっかけに、生徒たちが自律的にオーケストラで素晴らしい音楽を奏でたいという思いも最大限支援をする。しかし、冒頭とラストが、ラエルチ自身の音楽家としての姿を描いていることに、犠牲精神を美徳とする日本人には少し異質に映ってしまうかもしれません。でも、たとえ歳が離れている生徒に、先生自身も教えられるということも多々あるはず。本作は、そうした等身大の教師と生徒との真剣な交流が、一人の男とオーケストラを成長させたというところが奇跡と言われるところかもしれません。

こう思うと、メリル・ストリープの「ミュージック・オブ・ハート」は音楽映画としても、教育映画としても傑作だったことがよく分かります。もう一度、観てみようかな。

次回レビュー予定は、「君の名は。」です。

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