『帰ってきたヒトラー』:物語が中盤まで弾けない展開に、若干イライラさせられる。。

帰ってきたヒトラー

「帰ってきたヒトラー」を観ました。

評価:★☆

ドイツで200万部を売り上げ、世界41か国で翻訳されたティムール・ヴェルメシュの同名小説を映画化した作品。突如現れたヒトラーの姿をした男。最初は皆がモノマネ芸人と思い、彼は徐々にテレビ界でスターになっていく。しかし実は彼は、本当に過去からタイムスリップしてきた本物のヒトラーだった。監督・脚本は、デヴィッド・ヴェンド。

ベルリン陥落前の追い詰められたヒトラーが、何の因果が現代にタイムスリップし、現代の新しい技術・風習に戸惑いながらも適応しながら野望を果たしていくという結構とんでもない話。もとは小説みたいですが、僕は本作を観て、舞台劇なのかなというくらいにすごい演じる空間が狭く感じました。カメラが全体的にキャラクターに対して寄りの映像が多いのと、中盤で劇中劇となる部分があるので、そう感じたのかもしれません。このお話の最大のウリは、ヒトラーは現代に蘇ってもヒトラーとしての野望を果たすのかというところ。これには冷戦が終わり、多民族・多人種が混在して生きる、ある意味では生き難い現代で、彼のファシズムというイデオロギーが台頭する可能性もないわけではないかなという怖い局面をも象徴しています。確かに欧州を見ても、EUからイギリスが脱退し、難民排斥などの右寄りな政権が球速に広がっていることからも、現代の不安に感じる部分が、あの1930年代後半のヨーロッパを支配した空気にどことなく通じてきそうなところもあるからです。作品でも中盤ではそういうことが象徴的に描かれます。

ですが、全体的にヒトラーのキャラクターがすごく一辺倒過ぎて、ややウンザリとしてきます。主張を繰り返すのは如何にも彼らしいところではあるのですが、計算高く、社会の転覆を狙っていくところまでがやや周りくどい印象を与えます。物語としてももう少し弾けるかなと思ったのですが、期待したほどではなかったのは、先日観た「素敵なサプライズ」と同じく予告編の空気にかなり騙された感があります。それでも、日本では先の大戦の先導者をこういう形で描くのはタブー視されてできないだろうことが、ドイツではあっさりとできてしまうことが歴史観の違いをまざまざと感じます。歴史にあるような闇の面というのはタブーだから蓋をしてみないのではなく、史実を克明に捉えながら、そこから何を感じ、それをどういう形で未来に繋ぐのかということを、やはりもっと考えないといけないのかなとも思ったりします。映画とは関係ないですが、戦後を考える夏に観た作品だけあって、そういうところに想いを馳せてしまいます。

次回レビュー予定は、「嫌な女」です。

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