『日本で一番悪い奴ら』:正義と思う暴走は、ときにそれ自体が大きな暴力となる!

日本で一番悪い奴ら

「日本で一番悪い奴ら」を観ました。

評価:★★★★

北海道警の最悪の悪徳刑事事件を、実在の刑事の手記で炙りだした『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』を原作に、日本警察史上最大の不祥事と呼ばれる事件を題材としたドラマ。叩き上げで警察に入った、北海道警察の刑事・諸星。彼ははじめこそ真面目に勤めていたものの、成果が上がらない毎日の中、先輩刑事から秘密の告白をされる。スパイの内通により拳銃摘発などで徐々に成果を見せ始めた諸星は、やがて一線を越えてしまう。監督は、「凶悪」の白石和彌。主演の諸星を演じるのは、「リップヴァンウィンクルの花嫁」などの作品で活躍する綾野剛。

警察による不祥事というのは軽いものから、懲戒に至るものまで年に何回かニュースで見聞きはしますが、2002年に発覚した北海道警での事件(通称、稲葉事件)というのは銃刀法違反、覚せい剤所持等、道警史上でも最悪の不祥事とも言われ、当時ニュース等でもよく報道されていたのを覚えています。その事件自体は刑も確定し、当事者本人も刑期を終えているのですが、驚くのはその本人による手記が発刊されていて、それが今回は映画になって、しかも力強い秀作になっているというのはなんともはやというか、映画が作られる背景も含めて、うまく”悪事”というのを象徴的にあぶり出しているなという感じがします(うまく表現できなくて、スイマセン)。本作を見ていて感じるのは、すごく主人公・諸星という男がどうしようもなく正直だったということ。正直過ぎるがうえに、成果を上げることを求められ、そのことのためなら違う罪を犯していても、成果にただまっしぐらになっていく。逆の目線から見れば、純粋すぎるがうえに生じてしまう”悪”というのが、すごく物語の悲哀となって後半の味付けになっていくのです。

この映画を見ていると、何が正しいことなのか、「正しい」という感覚が麻痺してくるのです。それはきっと当事者である諸星が感じた、ある意味の正義ともいえる”悪への暴走”を追体験しているに他ならないのです。でも、こういうことって、拳銃や覚せい剤絡みのことまで行かなくても、日常的にもよくあることだと思います。仕事だったら、「打合せを無事に終わらせればいい」とか、「受注や売上が上がればいい」とかで盲目的に行っている非道なこともあるでしょう。日常でも、「ちょっとのことだからいいだろう」とか、「他の人もやっているからいいでしょう」とか、そういう何気ない感覚で周りに迷惑をかけていることもあるでしょう。こうしたことは自分自身であったり、自分が所属している組織であったり、自分が信じる事柄に都合が良ければ、他はどうでもいいことの暴走の暴力に他なりません。このときにその暴走を止めるのが、倫理観であったりするのですが、今の日本ではその感覚も希薄になってきたりもするのです。自分がやっていることが、「悪いこと」でないのか。思わず身辺を見直してしまうほど、怖い感覚に陥ってしまう作品です。

次回レビュー予定は、「帰ってきたヒトラー」です。

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