『リップヴァンウィンクルの花嫁』:現代社会の縮図を見事に表現。岩井俊二監督の最高傑作!!

リップヴァンウィンクルの花嫁

「リップヴァンウィンクルの花嫁」を観ました。

評価:★★★★★

「花とアリス」の岩井俊二が監督・脚本・原作を手がけた作品。岩井監督は「花とアリス」以降も様々な作品のプロデュースをやったり、監督業も続けたりしていますが、本格的な劇映画を観るのは「花とアリス」以来の12年ぶり(以前、観たのは大阪だったなー)。主演を務めるのは、昨年の邦画No.1に上げた「幕が上がる」を始め、数々の映画、テレビドラマに引っ張りだこの黒木華がどっぷりの主演作品となっています。岩井作品は「花とアリス」、「スワロウテイル」、「リリイ・シュシュのすべて」くらいしか見ていないですが、僕の中で本作が最高傑作ともいえる作品に仕上がっています。

本作のテーマはすばり仮想的人間関係、、でしょう。最近では、ソーシャル・ネットワークとか、SNSとか言ったりしますよね(笑)。僕自身もそうですが、ここ十数年で進化したPCやスマフォの台頭によって、ブログ、Twitter、Facebookなどに代表されるように、オンラインの世界で簡単に社会的なつながり(知り合い)を増やせるようになってきました。従来、人と人との関係というのは、家族という血縁関係はもちろんのこと、恋人、友人、ご近所さん、同僚、仕事関係、、などなど、ある程度身の回りの生活の中で、特定のかしこまった場で結ばれるのが普通でした。でも、今ではもっと簡単に同じ趣味・志向や、信条はもちろんのこと、2ちゃんねるやオンラインゲームなど、もっと気軽に、ライトな感覚で人間関係を形成できるようになっています。それによって、実社会ではあまり積極的でない人でも、ネットの中でスターになったり、友人をたくさん増やしたり、仕事を作ったり、収入を増やしたりすることもできるようになってきているのです。そこでは新しい産業を作ったり、孤立した人を救ったりとよい一面があったりもしますが、そうした表面的な付き合いしかできないことで逆にいざこざが起こったり、ネットいじめや犯罪にも使われたりとする負の一面も出てきている。でも、こうした新しい世界ができた以上、これからを生きる人はこうした生き方も対面しないといけない問題なのです。

その中で、本作ではそうしたネット社会の表面的な軽い付き合いを、実社会に表層化した場合のドラマを描いています。かといって近未来の話かというとそうでもなく、実際に今どこかで動いているような仮想的な人と人とのつながりと、そこで起こっていくドラマを見ているように思うのです。主人公の黒木華演じる皆川七海は高校での非常勤教師を勤めながら、収入のためにコンビニでこっそりバイトをする毎日。そんな中、ネットを通じて気軽に会った恋人・鉄也と結婚することになる。両親が離婚をし、親戚も友人も少ない七海は結婚式の参加者を代理出席で補うため、ネットを通じて知り合った何でも屋の安室に依頼する。快くなんでも引き受けてくれる安室に依存する七海だが、次第にいろいろな騒動に巻き込まれていく、、

七海の周りに起こっていく不可思議な出来事に対し、それを次々と解決していく安室。一見、白馬の騎士のようにも思えるのですが、(ネタバレを避けると)彼自身は「不思議の国のアリス」に出てくるウサギの役回りにしか過ぎないのです。安室は決して悪者なのではなく、ただ1つの目的のためだけに動くコマに過ぎない。彼と関わる人々にとって、彼が正義のヒーローに見えるのか、悪魔のような存在に見えるのかは、その人の主観にしか過ぎないのです。これが非常に面白い。ネットでつながれる気軽な関係でも、人間関係には変わりはない。その1つの人間関係の中で、相手をどう認識し、どういう行動を取り、どういう感情を抱くのか、、そこにドラマは生まれていくのです。実世界で結ばれるだけの関係とは違い、いろいろなことが連鎖的に起こるネット世界は、まさにワンダーランドなんですよね。七海はその中でウロウロと翻弄されるアリスでしかないのです。

本作が素晴らしいと感じるのは、こうした新しい(現代的な)人と人とのつながりを否定的に捉えていないこと。その象徴が後半から登場してくるCocco演じる真白の存在。七海と真白との関係も薄いつながりの関係から生まれるのですが、前半で散々裏切られる関係しか結ばれなかった七海の旅で、本当に真摯に七海と向き合った初めての存在となるのです。だからこそ、きっかけは何にせよ、結ばれることのある人のつながりを否定すべきではない。七海と真白のつながりをラストに向けて壮大に歌い上げていくことで、人とのつながりが薄いと言われる現代もそう捨てたもんじゃないなと思えるのです。

3時間という少し長尺な作品ですが、その長さを全く感じさせない力作でした。七海を演じた黒木華、安室役の綾野剛、真白役のCoccoと、この映画のために存在している役者といっても過言ではないくらいピッタリと役柄にハマっています。2016年の上半期は、この邦画が間違えなくNo1といえるでしょう。

次回レビュー予定は、「ちはやふる 上の句」です。

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