『ちはやふる 上の句』:部結成に絡むサブキャラクターたちの描写が実にいい、役者陣の演技も完璧!

ちはやふる 上の句

「ちはやふる 上の句」を観ました。

評価:★★★★

高校の競技かるた部を舞台にした末次由紀の同名コミックを、「タイヨウのうた」、「ガチ・ボーイ」の小泉徳宏監督が映画化した作品。本作、「上の句」は二部作の第1作目にあたり、「下の句」が続編2作目として既に準備されています。この映画感想文を書いている段階では、実は続編の「下の句」ももう観てしまっているのですが、今回は「上の句」だけに限定した感想文としたいと思います。主演は、「海街diary」の広瀬すずが務めています。

競技かるたという異色な世界を舞台にしているだけにあって、まずは競技かるたというのものがどういうものかを物語の中で説明していくのですが、これが単純な説明になっていないのが、まず実に良いポイント。基本的には”百人一首かるた”ではあるのですが、かるたを知らないような現代を生きる若者にも、その魅力が存分に伝わるのがいいんです。それを見ながら、今の子どもたちはそもそも家にかるたはあっても、”百人一首かるた”なんてあるのだろうかなーと思いました。僕は小さい頃に家にもあったし、それで遊んだ思い出もあるのですが、中学校とかで古文に触れる前に、日本の古き雅な世界(と当時は思っていなくて、昔の人の文化は分からないと思いましたが笑)との接点は一般家庭にはあるのだろうかとも思うのです。かるたの競技としての魅力だけではなく、日本の和文化の世界を、CGをうまく使いながら展開していくのがいいんです。Perfumeの歌と合間うエンドクレジットも実にいい。

二部作の前編となる「上の句」ではもう一つポイントとなるのが、主人公・千早と太一、新という幼なじみ3人を取り囲む周りのキャラクターの物語にあります。具体的には、千早が結成することになる競技かるた部に巻き込まれる、清楚な和女かなちゃんこと・大江奏、千早・太一とは子どもの頃に対戦があるが影が薄い肉まんくんこと・西田優征、ガリ勉で友達がいない机くんこと・駒野勉の3人。初めは部結成の人数合わせに過ぎなかった彼らが、次第に千早の熱血さから部活動に引きこまれていき、逆に、千早や太一を叱咤し、引っ張るようなキャラクターにまで成長する姿が実にいいんです。そもそも中学や高校の頃の部活動って、朝練とかの辛い練習や、試合なり、コンクールなりの面倒臭い事柄を、なぜやりこなさないといけないんだろうと思うことって、誰しもあると思うんです。もちろん、スポーツにしろ、文化系の活動にしろ、そのことを好きだったり、インターハイとかプロを目指すまでに頑張る人もいるでしょうが、大半はそうでもなくて、それこそなぜやらないといけないかって、意味のなさそうな数学を勉強することくらい訳の分からないことなんだろうなとも思ったりします。でも、結局はそこで行われるいろんなことを通して、人と人とのつながりなり、関わり方なり、集団・チームとしてやっていく意味みたいのを学ぶことなんだろうと、大人になった今振り返ると思うのです。5人という少人数の部活だからって、5人の考えはそれぞれ違うもの。でも、同じ1つの目標に向かってとことん目指し続けることが、きっと人として大きく成長す礎になったりするのです。

今回フォーカスが当たった上記の3人、誰もがいいキャラクターを魅せてくれるんですが、机くんの成長ぶりが本当に気持ちいい。僕も結構自分のことで一杯一杯で、周囲に高い壁を作ってしまうので、彼に自分自身の姿を投影して観てたのですが、その壁を他の4人がものの見事に打ち崩して引っ張りあげてくれる。そして、本当の自分の姿を掴んだとき、今度は逆に彼自身がチームを救う行動をしてくれるのです。「みんなは1人のために、1人はみんなのために」という仲間への信頼というありふれたテーマではあるのですが、これをここまで爽快な物語として観させてくれる作品はなかなかないのではと思います。

といういい青春劇を提供しながら、ラストでは千早と太一の恋物語もしっかり挟み込む辺りは抜け目がないというか、むしろ単純な青春ラブドラマの枠に留めなかったところが、作品全体の爽快感につながっているのではないかと思います。千早を演じた広瀬すずをはじめ、部のメンバー5人の役者の演技も実にいいので、是非スクリーンで観てみてください。

次回レビュー予定は、「人生は小説よりも奇なり」です。

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