『マネー・ショート 華麗なる大逆転』:説明ムービーにも工夫があり、物語全体の推進力にもなっている機転作!!

マネー・ショート

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」を観ました。

評価:★★★

緻密なデータ分析で勝ち上がっていく物語を描いた「マネーボール」。その原作者マイケル・ルイスの同名ノンフィクション経済小説を、「アントマン」のアダム・マッケイ監督が映画化した作品。リーマンショックが起こった2008年の3年前、不動産バブルで沸き立つアメリカにおいて、いち早くそのバイブル崩壊と世界同時不況を予言した4人のトレーダーや銀行家たちの物語を並行で描いていきます。「マネーボール」で主演を張ったブラッド・ピットが本作でも製作・出演を務めていますが、彼の役回りは4人の内の1人に過ぎず、どちらかといえば脇役的なポジションを演じています。本作でアカデミー賞助演男優賞ノミネートとなったクリスチャン・ベールや、口うるさいヘッジファンド・マネージャーを演じるスティーブ・カレルのほうが元気な作品です(笑

今年観た映画では「ドリームホーム」もリーマンショックに絡んだ映画でしたが、本作は被害者の立場ではなく、その経済不況をいち早く予言し、それを自らの腕で巧みに乗り越えていった男たちの物語になっています。1つ、こういった経済を扱う映画で分からなくなるのが、台詞(日本では字幕中も)に頻繁に飛び交う経済や金融の専門用語。リーマンショックの元凶となったサブプライムローンは、担保がなくとも、低利率で借り始めるローンでしたが、それを債券化して市場で高値でやり取りすることで、内包していた不良債権の火種が一気にはじけたことによって経済不況が生じたのです。そんな素人には分からないMBS(不動産担保証券)とか、CDO(債務担保証券)とかの経済・金融用語を、各シーンごとで例え話のシークエンスをインサートして説明しながら進んでいくのです。こうした説明シーンを挟んでしまうと物語のテンポとしては冗長になりがちなのですが、この映画の凄いのは、そうした説明シーンもドラマ部分と絡めた描写にすることで、全体の物語の推進力に変えていくのです。日本のアニメ「ヤッターマン」で見られたような、”説明しよう、、、”をまさにテンポよくやっているのによく似ています。

こうしたスピーディーな物語に、演じ手となるそれぞれの男たちの熱い物語がよく合っていきます。僕が本作で目を奪われたのは、スティーブ・カレルの熱演でした。「ゲットスマート」などのコメディの人という印象がある役者が、やはり劇映画で真剣に演じると迫力が出てくる。彼の前作でもある「フォックス・キャッチャー」での怪演ぶりも見ものでしたが、本作でもいい熱を出してくれています。彼のような熱演をする人もいれば、ブラピのように軽くいなすような演技もする人もいて、でも全員は熱のあるキャラクターになっているなど、見事なアンサンブルが成立しているのです。この役者の演技合戦も本作の魅力を上げている要因だと思います。

ただ、見かけの作風は軽く作ってある工夫をしていても、お話の本流は経済についての映画なので、短い時間に経済のことを理解しながら、映画を楽しむのは困難なことだとも思います。僕が観た回でもカップルでデート鑑賞していた人たちがいたのですが、女の子のほうはチンプンカンプンで楽しめていない様子でした。「マネーボール」もそうでしたが、物語の核に素人には理解が難しい素材(本作は経済・金融、「マネーボール」なら野球のデータ分析)があるものを如何に楽しく描いていくかは、相当なテクニックがいることなということを時間した作品でした。

次回レビュー予定は、「これが私の人生設計」です。

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