『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』:アメリカ住宅事情を地味に描く、見応えのある社会派作品!

ドリームホーム

「ドリーム ホーム 99%を操る男たち」を観ました。

評価:★★★★

ジョセフ・E・スティグリッツの著書『世界の99%を貧困にする経済』をベースにし、住宅ローン返済不能に実際に陥った人々のエピソードを織り込みながら、一本の作品にした人間ドラマ。近年、なかなかこの手のドラマはない感じがしてすごく新鮮でしたが、ジャンル的にはドキュメンタリー調なドラマでもあり、「ザ・ファーム 法律事務所」のようなサスペンス要素(法廷ものではないですが、、)も若干感じられる社会派作品になっています。愛する我が家を失い、ひょんなことから取り立て屋側に立つことになる主人公デニスを、「アメイジング・スパイダーマン」の若手アンドリュー・ガーフィールドが、取り立てをしながら巨大な不動産ビジネスを牛耳ろうとするブローカーをマイケル・シャノンが演じています。監督は、「チェイス・ザ・ドリーム」のラミン・バーラニ。

ご存知のように、2008年に世界不況の引き金となったリーマン・ショックは、アメリカの中産から下流階級に広がっていたサブプライム・ローンを火種とした住宅バブルが弾けたことから始まりました。この住宅バブルのそもそもの要因は、「家を持つ」ということが社会人にとっての一種のステイタスでもあり、「家=資産」という幻想が未だに私たちの中の思いのあるということだと思っています。僕は現時点では持ち家もないし、今度も持つ予定はないのですが、それは今「家を持つ」ということが”資産”ではなく、”負債”を背負うとしかどうしても思えないことにあるのです。都内などの土地の値段が下がらないところに買うのならまだしも、家なんて10年経ってしまえば家自体の価値はほとんどなくなってしまうのに対し、そのために何十年のローンを組んでまで持ち続ける価値がある資産だとは思えない。もちろん、賃貸でも家賃を払うことにはかわりはないのですが、仕事や収入面の状況によって、賃貸は容易に借り換えが聞くのに対し、持ち家でローンで縛られると仕事も容易に変えることもできないし、経済状況が苦しくなれば、ローンが一気に大きな負債としてのしかかる。子どもや孫の世代まで何十年と継承していく家は別ですが、親戚も多くない家庭事情を鑑みても、僕のような単身志向の強い人たちが、今後増えていくと「家」のもつ意味も少し変わってくるのかなーと思います。

すいません、話が脱線しましたが、本作はそうした「家」という大きな買い物を、安易な金融ローン商品で組み、おまけに社会全体がそうした状況を是としまって、つぶされていく人々の物語を克明にとらえていきます。はっきりいって、描き方も地味ですし、出てくる俳優陣も日本では地味めに映る人も多いように思います。でも、この地味に淡々と描いていく手法が、アメリカで実際に起こっているリアルな状況を手に取るように分かりやすく捉えられるのがいいのです。作品を観ていて思うのが、やはり金融商品に対して無知な人々に、政府が保証するような形で安易に家を変えるようにしたズサンな構図と、それによって家を取り上げられる人々に対して、更にそれを食い物にしようとビジネスを虎視眈々と狙っている人がいるという哀しい現実でしょう。特に、表面的には冷静なビジネスマンでもあるブローカー・リックの敏腕な手腕とは別の、内面の腹黒さというものをマイケル・シャノンが実によく好演していると思います。彼こそ、本作まではあまり知られることのない俳優さんだったと思いますが、本作では主役のアンドリュー・ガーフィールドより光っていると思います。

リアルで悲しい現実はあっても、そこに一筋の光を差し伸べるのは、お金だけでは割り切れない人の想いというところでしょう。ラストでデニスが見せた行為は、非情なアメリカ社会の中でもそうした目線で見れる若者が出てくることを期待したことだと思います。久々に、見応えのある社会派作品を見せてもらいました。

次回レビュー予定は、「スティーブ・ジョブズ」です。

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