『スティーブ・ジョブズ』:ジョブズという人となりを、3つのターニングポイントのみで描き出す意欲作!!

スティーブ・ジョブズ

「スティーブ・ジョブズ」を観ました。

評価:★★★★☆

Appleの創始者として、また近年見る類まれないイノベータとして、亡くなった今でも世界中から注目され続ける男・スティーブ・ジョブズの生き様を、Appleとジョブズとを体現する3つの重要な新製品発表会の裏幕劇という面白い形で描いた作品。ジョブズの半生を描いた作品としては、アシュトン・カッチャー主演で2013年に公開された同じタイトルの「スティーブ・ジョブズ」という作品がありますが、あの2013年公開版が伝記映画としては正統派。本作は、ジョブズの人生の中で3つの重要なターニングポイントのみを描くことで、ジョブズという人の考え方や、パーソナルな人生観を浮き彫りにしていく異色な作品となっています。主演には「それでも夜は明ける」のマイケル・ファスペンダー、彼を支える秘書役に「タイタニック」のケイト・ウィンスレット(本作で、アカデミー賞助演女優賞ノミネート)、監督は「スラムドッグ・ミリオネア」のダニー・ボイルが務めています。

iMacやiPhoneなどの先鋭化されたプロダクトを生み続けるAppleですが、僕の中ではお洒落だけど使い難いMachintoshのメーカーというのが未だに脱ぎいきれません。それはやたらデザインにはこだわりがあるけど、コンピュータとしてみれば、そのデザインにハードもソフトも全て割を食っていて、とにかく遅い、すぐ固まる(フリーズを起こす)、知らないうちに強制終了されるという使い物にならないパソコンというイメージが、僕らの世代では定着していた感があるのです。しかし、ジョブズは昔からとことんデザイン性にこだわった。それが時代と共に、コンピュータの能力は飛躍的に進歩し、ジョブズが頭に描いていたことがようやく2000年代に入って実現できるようになってきたのです。何と言っても、Appleが再生したのは、本作の映画の終盤にも登場するiMacの発表。このパソコンの大々的な成功が、今や誰しもが持っているiPhoneというスマートフォン時代の幕開けをAppleが先陣を切っていくことにつながるのです。ジョブズが凄いのは、こうした先見性を持ち、誰が何と言おうともそれを曲げなかったこと。その強い信念が、社内外で様々な人との衝突を生み、彼の半生を波乱万丈に満ちたものにしていったのです。

映画を見ると分かるのは、ジョブズという人は自分の信念のためなら、たとえ事実を偽ってでも、堂々と世間に打って出る狡猾さを持っていたことでしょう。それの象徴が中盤の2つ目に登場する1988年のネクストPCの発表会。このときにできていたのは、実質的にパソコンの外観である箱のみで、OSもソフトウェアもとても世間にはお見せできない代物でしかなかったこと。彼にとって重要だったのは、モノが出来ているかどうかということではなく、Appleなり、ネクストなりが、世間にどういうコンセプトで製品やサービスを問うかということしかなかったのです。ジョブズという人はAppleというPCメーカーのCEOではありますが、プログラムも書けなければ、部下を容赦なく切り捨てたり、マーケティングもド返しするくらいで、経営者としても失格レベルだった(実際に、Appleを追い出されているし)。でも、彼が打ち出すずば抜けたコンセプトには誰しもが魅了され、そのコンセプトを是が非でも実現する猪突猛進な一面が誰しもがかなわなかった。だからこそ今でも世界中の誰しもが尊敬されるイノベータとしての認知されうるのです。彼の真似は今後もきっと誰もできないでしょうし、するべきでもないのかもしれません(笑)

本作で面白いのは、冒頭にも述べた異色な構成だけではなく、そうした猪突猛進側のヒーローが持つ人間的な一面にフォーカスしていることでしょう。彼の敏腕なイノベータとしての一面だけでなく、その顔を一枚はがすと、とても人間臭い、恫喝し、時には気弱になる顔も覗かせるのです。部下を卑劣なまでに追い立てる彼ですが、それと同時に彼に一目置き、彼の信念にとことん付き合う人には厳しい言葉と、同じくらいな優しい一面をも見せるのです。ジョブズとウォズニアックの関係などはまさにそう。経営方針でいがみ合っても、面白いアイディアや新しい技術のことになると、Apple創業時のガレージで議論し合った仲間のときの顔をお互いが見せる。通じ合うということとは何なのか、、まさにそれを象徴するいいシーンでした。

映画全体としては意欲的で面白い作品ではあるのですが、2013年版の作品より、ジョブズやAppleの歴史を知らない人にはチンプンカンプンな作品かなとも思います。発表会の内幕劇という構成も、やや後半少しダレ気味になるのも気になったところではあります。

次回レビュー予定は、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅 The Movie」です。

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