『キャロル』:1人の美しく、哀しく、妖艶な生き方をする女性の物語

キャロル

「キャロル」を観ました。

評価:★★★

「太陽がいっぱい」などの映画化作品が知られる小説家パトリシア・ハイスミスの原作小説を、「エデンより彼方へ」のトッド・ヘインズ監督が映画化した作品。主演には「エリザベス」などで知られるアカデミー賞俳優のケイト・ブランシェット、ブランシェット演じる妖艶な女性キャロルに惹かれる女性を、「ドラゴン・タトゥーの女」のルーニ・マーラが務めています。

ハイスミス原作ものというと、「見知らぬ乗客」や「太陽がいっぱい」などの本作ミステリーとしての作品が多いのですが、本作はそうしたミステリーとは一線を画し、同性に惹かれる愛情という要素が主になっている印象を受けます。かと言って、ストレートなゲイ作品といった趣とは違い、どこか綺麗で、手の届かない高値の花の一人の婦人に、まだ少女を抜け切れない若い女性が抱いた羨望的な恋心といった形の作品になっています。だからかもしれませんが、キャロルを演じるケイト・ブランシェットの妖艶なまでの美しさは、その裏側に潜む狂気のようなエロさもムンムンと漂ってきて、作品の中ですごく異彩を放っています。彼女は作品のアカデミー賞(87回:2015年)に、「ブルージャズミン」で最優秀主演女優賞に輝き、本作でも本年度(88回:2016年)にも主演女優賞としてノミネートされていますが、どちらかといえば昨年よりも本作での受賞が相応しかったかなと思います。それくらいの強烈なインパクトを残す役柄を本作では演じているのです。

それに華を添えるのが、トッド・ヘインズ監督の演出美でしょう。この人も「エデンより彼方へ」で同じ1950年代の高級白人婦人と黒人との禁断の愛を描いていましたが、同じ1950年代をムード感たっぷりに描く素養はなかなかのもの。古き良き時代のデパートやくすんだモーテル、タバコの煙が漂ってきそうな2人の親密な会話までも描き込みが非常に丁寧。これだけ世界観を見事に作り上げれる監督も、近年の監督では稀だと僕は思います。

ただ、強烈な印象の設定な割に、作品全体が大きな動きがなく単調に進んでしまうのが残念な感じもします。物語自体に大きな変化が出てこないこともありますが、唯一の工夫が物語のラストが冒頭に描かれるというところくらいで、あとは予想の範囲内に収まってしまっているのです。この作品は題名通りに「キャロル」という美しく、その裏に激しいまでのいろんな顔をもっている女性の生き方に感嘆するだけの作品のように思います。

次回レビュー予定は、「ドリームホーム 99%を操る男たち」です。

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