『俳優 亀岡拓次』:役者陣の演技は見応えがあるが、抽象的な世界観が少し邪魔な要素になっている。。

俳優 亀岡拓次

「俳優 亀岡拓次」を観ました。

評価:★☆

名エキストラ、名脇役俳優として、キャリアを積み重ねてきた俳優・亀岡拓次。彼がふとしたことから恋に落ち、仕事に、恋に奮起し始めることから、思わぬ方向に人生が転がっていく様を描いた人生喜劇。主演・亀岡を演じるのは、舞台俳優としても長く活躍し、TVドラマや映画でも、本作の亀岡のような脇役も準主役も強烈な個性で演じる安田顕、亀岡が恋に落ちる居酒屋のバツイチ娘を麻生久美子、監督は「ウルトラミラクルラブストーリー」以来のメガホンとなる横浜聡子が務めています。

僕は本作を見ながら、仕事で人はどう奮起していくかということについて考えさせられました。本作の主人公・亀岡は、脇役としての人生を長く続け、映画やドラマなどの監督やスタッフからは、エキストラの見本とも言われるくらいの地位を築いてきた。しかし、本人は役者としてどうありたいというよりは、むしろ役者というのは1つの仕事であり、収入を得るために当たり障りなくキャリアを重ねてきたに過ぎない。なので、仕事は卒なくこなすが、その芸自身を磨いていくということはしてこなかった。だけど、そこに訪れたのは、突然の恋。この人のためならと人生も前向きに、仕事に対しても挑戦をしようと前向きに進めていこうとするんですが、脇役ならいろんな仕事が割り当たるのに、なかなか主役級の座は巡ってこない。よくやりたい仕事や自分が好きな仕事と、得意で周りから評価される仕事は別になることがあったりしますが、まさに亀岡自身も、そのドグマにハマっていくのです。

自身も着実にキャリアを重ねてきた安田顕が演じているだけに、各ドラマや舞台の裏側、スタッフとの会話などは、演劇界、芸能界の裏側を垣間見えるようで、とても面白い。そして、それに華を添えるのが、麻生久美子演じる居酒屋の娘と亀岡との会話シーンでしょう。こういう地方の場末な居酒屋トークっていいですよね。確かに、こんな若女将にサービスしてもらったら、恋にも落ちちゃいます。あと、先輩の舞台役者として、亀岡に指導を与える大女優役の三田佳子が実に良かった。僕は昨年(2015年)のNHK大河ドラマ「花燃ゆ」の彼女の演技が実によく、名女優が復活してくれているのは素直に嬉しいですね。

そうした役者陣の力の入った演技は良いのですが、本作は物語の転がし方が少しいただけないかなと思います。亀岡が外国映画のためのオーディションに入っていくところなど、物語としても、映像の編集方法にしても、観念というか、少し抽象的な表現が入ってきてしまい、作品としては間延びしてしまった感があるのです。監督の持ち味といえばそうなのでしょうが、本作に限っては、リズム感が少し悪くなってしまっているような印象がどうしても拭えません。

次回レビュー予定は、「キャロル」です。

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