『オデッセイ』:邦題だけは唯一不満だが、あとは満点評価できる傑作!!

オデッセイ

「オデッセイ」を観ました。

評価:★★★★★

IMAX3Dの字幕版にて。

アンディ・ウィアーのベストセラーSF小説「火星の人」を、「エイリアン」のリドリー・スコット監督が映画化した作品。僕は、この作品の原作小説をたまたま買っていて、冒頭少しだけ読んで、そのままにしていたのですが、映画公開に合わせて、再度読んでみたら、これが面白いこと半端ない。普段は小説はあまり読まない僕でも、これだけ引きこまれたので原作の面白さは折り紙つき。原作はリアルスティックなSF小説なのですが、それを一種のサバイバル作品として、この映画版も見事に昇華された作品になっています。

リアルスティックと書きましたが、もっと正確にいうと、非常にサイエンティフィックな作品になっています。マーズ・パスファインダーやキュリオシティなどの近代の火星探査機の活躍もあって、火星はどのような成分でできているのか? 生命は存在したのか? などの科学的な状態はより詳しく探査されているわけですが、その探査情報を基に、”もし、火星でサバイバルをしないといけないとしたら、、”という物語を正確に描き出しているのです。水もない、空気もほとんどない、昼夜の寒暖差が激しく、大気もないので宇宙線などの放射線も降り注ぐという、強烈な悪環境の中、火星探査の宇宙飛行士として参加していたマーク・ワトニーは、火星で起きた嵐より脱出するメンバーからはぐれ、1人火星に取り残される。状況から考えて、死亡したと思われたワトニーでしたが、いろいろな運にも恵まれ、何とか火星のスペース・キャンプには帰還することに成功。しかし、次のミッションのメンバーがやってくるのは、4年後。食料もほとんど残っていない中、ワトニーの1人火星サバイバルが始まっていくのです。

小説版ではかなり詳しく、水を作るには、、とか、空気を循環させるには、、火星で食料を自給するには、、などなどのサバイバルのための諸条件が事細かく記されていきます。しかも、それは火星の状況だけではなく、現在まで行われてきた数々の宇宙ミッションと、これからNASAが計画している火星有人探査ミッション(2030年実現目処)を踏襲し、リアルな近未来で実現される宇宙装備を想定して描かれていることがすごく脱帽モノなのです。これは科学好きには是非読んでもらいたい。映画のほうは、それほど細かくワトニーのサバイバル方法は説明されないものの、小説でやっていたことで、文字ではうまく伝わらないことが映像として表現されていて、とてもストンと落ちるものになっています(ローバーはあれほど、しっかりしたものと思わなかったのが唯一食い違いましたが笑)。絵として、シンプルにまとまったフレーミングも素晴らしく、火星の情景がまさに美しく描かれていくのも見応えタップリです。

こうした科学的なサバイバル劇が面白いだけではなく、本作では「アポロ13」以来となる、人類が宇宙開発にかける想いみたいなところも描かれていることが素晴らしいのです。僕らが子どもの頃は、ちょうどアポロ計画が終わり、スペースシャトルから国際宇宙ステーションの時代へ移行したくらいで、まだ宇宙計画というのは人をワクワクさせる夢が詰まった時代ともいえたと思います。ただ、近年に入ると、地球周辺の宇宙開発はどちらかといえば民間に委託されつつあり、”はやぶさ”などの無人宇宙探査船はあるものの、宇宙ミッション自体が実用化に偏りすぎる時代になってきたのではないかと思うのです。やはり人類が未知の世界に挑むというのは夢がある。火星ミッションが次の夢になってくれることも期待ですが、本作ではやはりそうした人類未開の地に、今の科学技術を結集して挑むことの意義が垣間見えるのです。そこには技術だけではなく、人がどうあるべきかという深遠なテーマがあるのです。本作のように人が人を救うという行為に何百億ドルかかろうが、技術を使って人の可能性を押し広げるという至極当たり前な価値観があって、それが過去も、そして今後も人類の世界を押し広げていく原動力になっていくような気がするのです。

それにしても本作を観て、改めてリドリー・スコット監督の偉大さが分かります。「グラディエーター」や「ハンニバル」のようなゴシック調の格調高い世界を描いたり、「マッチステック・メン」や「プロヴァンスの贈り物」のような軽快な作品も描ける。リドリー監督は、過去にも「エイリアン」、「ブレード・ランナー」などのSF作品がありますが、本作はそうした全く違う世界を描くのではなく、数十年後には実現されそうな近未来の世界を描いているのです。軽妙なタッチもあり、科学的な味わいもあり、ヒューマンドラマとしても熱いものを感じる、、御年78歳(2016年)の巨匠は同じポジションに留まることなく、どんどんと進化と続けるのは脱帽としか言いようがありません。今後も彼の作品は楽しみでもあり、そして、その生き方も学びたいと思える作品になっています。

次回レビュー予定は、「俳優 亀岡拓次」です。

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