『万引き家族』:犯罪という名でつながった現代の疑似家族。人のつながりが希薄な中で、家族という幻想を追った人々の生き様!

万引き家族

「万引き家族」を観ました。

評価:★★★★

東京の下町で、犯罪で生計を立てている貧しい一家。ある日、父・治と息子・祥太はいつも通りの万引き稼業の帰り道、玄関から締め出され、凍えている幼い女の子を見つける。どうしようか迷いながらも、連れて帰る治だが、彼の一家は血の繋がりのない者同士が寄り集まった見せかけの家族だった。体じゅうの傷から境遇を察した妻・信代は、家族として受け入れるのだが。。「三度目の殺人」の是枝裕和監督長編14作目で、2018年カンヌ国際映画祭で最高賞に当たるパルムドールを獲得した作品。

新幹線で人が襲われたり、見ず知らずの者同士がネットで結託して、人を拉致して殺したりと他人という存在が信じられなくなってきている日本社会。暗いニュースが多い中で、是枝監督の21年ぶりに日本人監督としてのパルムドール(カンヌ国際映画祭の最高作品賞)受賞というのは嬉しいニュースでした。カンヌ受けしやすい作品だったのかという斜め見での鑑賞でしたが、是枝監督の今までずっと貫かれているテーマがやはり本作にも観られ、安心したというか、パルムドール受賞で、多くの人の彼が発するテーマについて観て考えてほしいなと思います。

僕が初めて観た是枝作品の「ワンダフルライフ」では死というゴールに向かって歩みを続ける人々を、「誰も知らない」では他人という断絶社会で取り残される子どもたちを、「そして父になる」では赤ん坊の取り違えから、見ず知らずの子を長年育てた父親たちを取り上げてきた是枝監督。彼の作品で一貫されているのは、他人という一見は血の繋がりのない中での共生(共に生きる)という形の模索だと考えています。無縁社会の現代では、家族という形を一種ファンタジーとしている山田監督と同様に、2000年代くらいから視点やテーマを作品ごとに変えているものの、すごく現代感覚をもった監督さんだと思っています。犯罪というつながりで擬似家族を形成している本作は、まさにそんな是枝作の典型ともいえる素材。カンヌの受賞で、より多くの人に彼のメッセージが伝わることはすごくいい機会だなと思っています。

感想文というところに立ち返ると、特に、作品の終盤は家族の解散という辛い場面があるのですが、そこを淡々と、むしろ新たな旅立ちのような解放感も含まれているのが少し助かります。ただ、冒頭に拾ってくる少女の立場からすると複雑ですよね。彼女のような存在を、地域というセーフティネットで救えなくなっているのが今の日本社会なんだなと思います。

次回レビュー予定は、「トゥームレイダー」です。

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