『ミッドナイト・バス』:離れたはずの家族が寄り添いながらも、再び旅立つまでを描く家族劇。淡々とした描写の中にも、しっかりとしたドラマ描写が光る秀作!

ミッドナイト・バス

「ミッドナイト・バス」を観ました。

評価:★★★★☆

新潟と東京間を運行する長距離夜行バスの運転手・利一。彼には離婚した妻・美雪、息子の怜治、娘の彩菜がいるが、今は別々に暮らしている。そして、利一には東京で定食屋・居古井を営む恋人・志穂がおり、一人暮らしの代わり映えのしない毎日の中で、彼女との逢瀬がささやかな心の拠りどころだった。ある日、利一は志穂を新潟の自宅に招くことにするのだが、そこに東京で暮らしているはずの息子・怜治が戻ってくる。志穂との関係がギクシャクしだしてしまうが、戻ってきた息子と時々実家に押しかける彩菜に心を配る利一。そんなとき、乗務しているバスに元妻の美雪が偶然乗車してくるのだが。。伊吹有喜原作の同名小説を映画化した作品。監督は「ジャンプ」でも、本作主演・原田泰造と組んでいる竹下昌男。

実に淡々とした映画で、実はこうした映画が好きなのかもしれないと思ってしまう鑑賞でした。調べてみると、本作の監督である竹下昌男は昨年リバイバル上映で観た、台湾のエドワード・ヤン監督作「ヤンヤン 夏の想い出」で助監督をやっていたとか。ヤン監督作も、日常の何気ない風景を淡々と撮り上げる人なので、やはりこういう作品が僕は好きなのかもしれません。映画やドラマというと、鑑賞するときはそこに非日常を求めがちですが、よくよく考えると、私たちが長く生きるのは日常に他なりません。学校に行ったり、職場に行ったり、家で家事に精を出したり、ちょっとしたものを買いに行ったり、心許せる仲間と飲み食いしたり、、と。しかし、こうした日常で見過ごされがちなのが、パートナーや家族との愛情であったり、友人や同僚との何気ない会話であったり、ご近所さんの関わりや周りの何気ない風景だったりする。とかく毎日という時間に追い立てられていると、こうした些細な幸せなり、人との大事な関わりを見過ごして過ごしてしまう。淡々とした日常に潜むドラマを観ながら、そこに描かれることを自己に投影して観ることで、こういうことを大事にしたいなと学ぶことができる。なので、僕は淡々とした作品が好きなのです(笑)。

本作は、離婚し、息子・娘も独立して、1人で気ままに暮らしている男が、ひょんなことから、再び離れたはずの家族に巻き込まれていくという、1つの家族劇になっています。離婚や独立という、人生の大事な契機(境目)を越えて、それぞれがそれぞれの歩みを進めたはずの人々が、こうして元サヤに戻ってしまうのも、その契機のときになんとなく考えずに日常をやり過ごしてしまったことに起因しているのかなと思います。それぞれが心の中に、これではいけないという想いを抱えながらも、1人でそれを背負っていくには何とも苦しい。そうしたときに気づいたら、元・家族として寄り添っていた。形はバラバラだったとはいえ、こうした帰れる家を持っていることで、それぞれがまた新たな出発を切ることができていく。実に、優しく、そしてラストはちょっと甘酸っぱさがありながらも、清い作品になっていると思います。

作品の象徴になっているのが、新幹線とかではなく、バスというのもいいですね。ぴゅんと着いてしまうのではなく、ゆっくりゆっくりとした歩みしかなくとも、確実に目的地には近づいている。それぞれの夢に再び旅立っていく各人の姿にうまく投影されていると思います。

次回レビュー予定は、「シネマファイターズ」です。

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