『ヤンヤン 夏の想い出』:台湾のニュー世代エドワード・ヤンの集大成な遺作。群像劇でもこれまで時の流れに自然に見せる術が凄い!

ヤンヤン 夏の想い出

「ヤンヤン 夏の想い出」を観ました。

評価:★★★★★

8歳になる少年ヤンヤンは、台北で祖母と両親、姉との5人で暮らしていた。ある日、親戚となる叔父の結婚式の後、祖母が体調不良で自宅で倒れてしまう。何とか一命はとりとめたものの、昏睡状態で帰ってきた祖母の看病に疲れた母親は家を出てしまう。父は家業である仕事に奔走されながらも、昔の恋人に偶然遭遇し、出ていった妻との冷えた関係から淡い想いに恋い焦がれ、姉は隣に引っ越してきた同級生の恋人に心惹かれていく。。ヤンヤンの周りで起こるひと夏の出来事を巡りながら、台北のごく普通の家庭を通じ現代の家族が抱える問題をリアルに描いたドラマ。監督は「恐怖分子」のエドワード・ヤン。

台湾の次世代を担う監督として期待されながら、2000年に製作されたカンヌ国際映画祭監督賞を受賞した本作後に癌を患い、2007年に59歳の若さで急逝したエドワード・ヤン。本作は実質的に彼の遺作になるわけですが、今年(2017年)、彼の1991年の作品「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」がリマスター上映されるのを機に、本作を再びスクリーンで観てみました。とはいうものの、僕はヤン監督作は本作しか観たことがないのですが、2000年頃の大学生のときに金沢の映画館で観たときも結構衝撃というか、すごく心に染みた作品だったので、もう一度観てみたいとはずっと思っていたのです。ちょうど京都の映画館で35mmでの上映される機会があったので、再び観てみた次第です。

本作しか知らないので、エドワード・ヤン論は語れませんが、作品の雰囲気は「マッシュ」などの群像劇で知られるロバート・アルトマン監督作に近いと思うんですよね。そもそも、本作は「ヤンヤン」という少年の名前はついているものの、ヤンヤン自身も家族の中の1人の一員として描かれていきます。そして、ヤンヤンの家族一人一人の物語がまるで走馬灯のように描かれる。群像劇といっても一人一人にフューチャーしていくというよりは、祖母が倒れて、亡くなっていくまでのひと夏を、ヤンヤンを象徴として、周りの人々の動きをまるで風景のように描いていく。その中には恋い焦がれていた昔の思い出が蘇ったり、自分がしてしまった残酷な行為を必死に後悔したり、見失いそうになる自分自身を取り戻そうとしたり、吹けば吹き飛んでしまうような淡い恋頃をどこまでも追い求めてしまったりと、人生のよくあり会える瞬間瞬間を、ヤンヤンの家族一人一人を使いながら描いていく。その中に、生だったり、死だったり、罪だったり、辱めだったりと、思えば残酷ともいえるシーンを挿入していくなど、様々な感情はありながらも、どこか過ぎゆく時の流れのように冷徹な視線もあるのです。見かけシンプルなようで、凄く繊細で深い作品なのです。

それにしても結婚式で始まり、葬式で終わる本作は人間ドラマとしては鉄板の構成ですね。いろんなジャンルに鉄板なストーリーの流れというのがあるのですが、人間ドラマでは起承転結の起と結を、こうした冠婚葬祭で挟むのが鉄板なんですよね。これを意図しないようにすんなりできるのがいい。実は最近観たある邦画も、この鉄板構成だったのですが、それは後ほどの感想文にて。。

次回レビュー予定は、「ワイルド・スピード ICE BREAK」です。

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