『あゝ、荒野 後編』:菅田将暉の役者としての凄さを感じるボクシング映画。前編の物語の積み上げが、後編はおざなりになってしまったのが非常に残念。。

あゝ、荒野 後編

「あゝ、荒野 後編」を観ました。

評価:★★★(前後編合わせた総合評価:★★★☆)

共に内なる思いを秘めてボクシングを始めた新次と健二。やがて、試合を重ねるにつれて、名を挙げてゆく新次。一方の健二はなかなか前に踏み出せないながらも、鉄壁のガードから繰り出すカウンターは一級品で徐々に頭角を現していった。宿命のライバル、裕二との戦いに挑む新次。2人を育んだジムが閉鎖が決まるなど、徐々に暗い影が2人を包むが、それに抗うような戦う姿を見せていく。同時に、互いを尊敬していた2人の関係も徐々に変わってゆき、健二は新次の戦いを熱い眼差しで見守る中、大きな決断を下すのだった。。寺山修司が唯一残した長編小説を菅田将暉とヤン・イクチュンのダブル主演で映画化した二部作後編。監督は、前編に引き続き「二重生活」の岸善幸が担当しています。

ボクシング映画なので、どうしても名作「ロッキー」と重ねてみてしまう本作。その意味では、前編は終盤の大きな対戦までの2人の経緯に過ぎず、この後編はいろいろ2人が戦いの場面になっていくという、まさにボクシングの戦い場面のみを描いている(もちろん、前編から続く様々なエピソードも展開するものの)と言っても過言ではありません。なので、本作はボクシングが主戦場で、その他の要素がどうしても小さく縮こまってしまっている。特にそれが如実に出ているなと思うのが、前編で衝撃的なシーンを描いて見せた自殺サークルのエピソードでしょう。前編ではあれだけ時間をかけて描いた割に、後編ではそこに巻き込まれた健二の父親が意味不明に出て来るにすぎない。本作の背景である暗い世界観を象徴していたのに、結局後編で作品としてはどう絡ませたかったのが逆に見えづらくなってしまっています。

同じようなことが新次の母親であったり、片目と絡む芳子の母親であったりと、登場させた割に話として濃く絡むわけでもなく終わってしまうキャラクターのエピソードが多いように思います。唯一決着がついたように思うのは、新次の兄貴分であった劉輝と新次、そして裕二も含んだ複雑な関係くらいでしょうか。。そうした中途半端感が拭えないサブエピソードに対して、予告編でも垣間見れる新次とバリカンこと、健二の熱い戦いが本作、そして前後編通しての作品としてのメインであるかと思います。怒りの感情にまかせて前に前に攻撃をしてくる新次、それに対し、バリカンは相手のパンチをすべて受け入れ、一瞬の隙をついて重いパンチを繰り出す。2人の友情というか、愛情みたいなものが、リングの上で魅せられるというのはすごく熱さを感じる場面になっていると思います。後半はほぼボクシングシーンのみ、この熱さはスクリーンで観てこそ伝わってくるものを感じます。

それにしても、ここ1、2年は新次を演じる菅田将暉の俳優としての力を感じます。同じ若手の小栗旬や綾野剛も上手いのですが、彼らは役者として役に化ける力が強いのに対し、菅田将暉は先日観た「野良犬」の昭和の名スター・三船敏郎のように、役を菅田将暉という俳優の側に持ってくるのです。石原裕次郎、松田優作、そして高倉健のように役が役者になってしまう昭和なスターの力を、彼には感じてしまう、、、と書くと褒めすぎでしょうか(笑)。

次回レビュー予定は、「ブレードランナー2049」です。

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