『新感染 ファイナル・エクスプレス』:世界中で高評価の”新感覚”ゾンビ映画!今までの系譜を踏まえながら、日本人にも共感できる要素が織り込まれている!

新感染 ファイナル・エクスプレス

「新感染 ファイナル・エクスプレス」を観ました。

評価:★★★

ソウルにある金融会社に勤める敏腕ファンドマネージャー、ソグは多忙な毎日ながらも、別れた妻との間の一人娘スアンを大切に育てていた。しかし、仕事に追われ、家のことは自分の母親に任せっきりで、スアンの心は父から離れていた。そんな中で迎えたスアンの誕生日。娘は別れた妻がいるプアンに行きたいとせがんだ。娘の期待に応えられていないと自覚していたソグは、娘の願いを変えるために早朝・時速300キロで走るKTXに乗り込んだ。その頃、世間では謎のウイルスによって、人が暴徒化していく不可解が事件が発生し始めていた。そのウイルスがソウルを飲み込もうとしていたとき、ちょうどKTXは発車したのだ。ウイルスの感染者1名が乗り込んでしまったことで、列車内で乗客が感染し、次々と凶暴化していく。感染者に捕らわれれば死が待ち受けるなか、残された者たちは生き残りをかけた戦いに挑んでいく。。高速鉄道車内で未知のウィルスの脅威にさらされた人々の姿を活写するサバイバル・アクション。監督は、韓国の新鋭ヨン・サンホ。

題名だけみると、「アウト・ブレイク」のようなウイルス感染によるパンデミックを取り扱った作品なのかと思いましたが、中身を見ると、典型的なゾンビ映画でした(笑)。ゾンビ映画というと、一昔前のジョージ・A・ロメロの世界では、日光に弱く、ノッソノッソと人を襲うのようなイメージでしたが、ダニー・ボイルの「28日後…」ではもう常人より(むしろそれ以上?)の走りを見せるようになり、「ワールド・ウォーZ」のような作品になると、もうゾンビ(あの映画も感染者という表現だったかもしれませんが)同士が一斉に折り重なって、集団の群れとなって襲ってくるという、まるで昆虫の大群に襲われたような恐怖を醸し出すようになってきました。本作は韓国映画でありながら、こうしたゾンビ映画の進化を受け継いだ(「ワールド・ウォーZ」の系譜に則った)作品となっています。

この系譜のゾンビ映画となってくると、ゾンビは集団性を帯びるようになってきて、恐怖の対象から、「多数(マジョリティ)vs少数(マイノリティ)」の構図が強くイメージされてきます。こんな考え方は僕だけかもしれませんが、本作において考えると、凶暴化した感染者に襲われるという少数派(マイノリティ)の恐怖というよりは、とっとと感染して、ゾンビという多数派(マジョリティ)になってしまったほうが楽なのではないかと思ってしまうのです。むしろ、下手に抵抗して列車脱線などの事故に巻き込まれて無残に死ぬほうが怖い。感染者になって意識はあるのかどうなのか分かりませんが、死んだと同じような状態になるのなら、多数派に飲み込まれてしまったほうがいい。だから、逆手に考えると、こうした多数派、少数派の対立構造が、昨今のゾンビ映画の暗喩として感じるのです。

当初本作は観る予定はなかったのですが、不思議と評価が高かったので観てみた次第。感想としては、確かに高評価しそうな人情エピソード(同じ列車に乗り込む妊娠中の夫婦のエピソードや、最後のソグの決意など)があるものの、全体として何か新しいなという要素は僕は感じなかったです。疑いある者を罰すると、そのしっぺ返しがくるような終盤の展開も、どこか小さい頃に法話で聞いた往生要集の”地獄と極楽”についての話や、芥川龍之介の「蜘蛛と糸」のような後味さを感じるだけで、新鮮味はあまりないかなと思いました。

次回レビュー予定は、「Viva! 公務員」です。

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