『幼な子われらに生まれ』:複雑な家庭間の人間関係に悩む1人の男。重松原作作品にしては感情の波は希薄だが、現実社会を巧みに捉える!

幼な子われらに生まれ

「幼な子われらに生まれ」を観ました。

評価:★★★

バツイチ子持ちの中年サラリーマン・信は、同じく前の結婚で2人の子連れとなった奈苗と再婚する。彼女の連れ子にも自分の娘同様に、誠心誠意尽くそうとするが、奈苗の妊娠をきっかけに長女が本当の父に会いたいと言い出す。。直木賞作家・重松清が1996年に発表した同名小説を、「少女」の三島有紀子監督のもと映画化した人間ドラマ。

日本はここ数十年というスパンで見ても確実に離婚率が上昇していて、今や結婚後、3組に1組は離婚をしているという状況に統計上はあるそうです。思い返せば、僕自身が子どもの頃というのは離婚していて、シングルファーザーやシングルマザーになっている家庭の友達というのはいなかったように思います。むしろ、両親が共働きでおじいちゃん・おばあちゃんに普段は世話をしてもらっているという家庭が珍しかったくらい。今は子どもがいても共働きというのはもはや当たり前で、専業主婦という存在すらも珍しいくらい。それくらいに一昔前に比べ、家庭環境が複雑化している社会(同時に、薄給で食っていくのも難しい時代)といえるのかもしれません。

本作は、そうした家庭環境が複雑な家庭のお話。前知識なしで見たので、最初主人公・信がどういう家庭状況にあるのかを理解するのが大変でした。バツイチで前妻との子どもは妻の方にいて、再婚した今の妻には自分とは直接血のつながりがない2人の連れ子がいて、そして今新しい命が妻との間にできようとしている。混乱した家族関係の中で、家族の在り方にどう向き合っていくのか、、というのが、本作の大きなテーマなような気がします。

僕自身が普通に両親がいる家庭に育ったので、片親ないし、連れ子というのがどういう状況なのか理解が及ぶところではないのですが、作品を見て悲しいなと思うのが、血を分けた実の娘でさえ、今の奈苗との家庭環境の中では、娘すら他人で、なおかつ本来は他人である連れ子が娘(近親者)となってしまうという場面でしょうか。それぞれに心に傷を抱えた時、真っ先に頼りになって欲しい父親、母親というのが、血を分けた存在なのか、そうでないのかで、ここまで同じ人間関係でも微妙に距離が違ってくる悲しさ。ましてや主人公・信の視点から見ると、全てが娘というのが女ならではというか、事態の複雑さを感じてしまうのですよね。重松作品にしては、心に訴える人の情みたいのは希薄でしたが、より今の現実というのを感じさせてくれる人間ドラマになっていると思います。

次回レビュー予定は、「台北ストーリー」です。

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