『ダンケルク』:ノーラン監督が初めて手がける実話モノ!映像、物語全てをとっても、新しい戦争映画の枠を作った快作!

ダンケルク

「ダンケルク」を観ました。

評価:★★★★★

第二次大戦が本格化してきた1940年。拡大するナチス・ドイツの勢力に、フランス軍と同盟関係にあるイギリス軍が徐々に追い込まれていた。ドイツ軍の猛攻により、フランス・ダンケルク港に追い詰められたのは両軍の兵士40万人。背後は海。陸海空からの攻撃により、全滅寸前の彼らを救うため、軍艦や民間船を動員した前代未聞の救出作戦が始まっていく。。「ダークナイト」、「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督が、初めて挑む実話(=戦争)を斬新な手法でを描く戦争映画。

「メメント」で衝撃的なデビュー(正確には長編映画としてのデビュー)を飾ってから、「インセプション」、「ダークナイト」を始めとするバットマン三部作、「インターステラー」と、独特の映像描写とそれに併せこむように巧みな物語の組み立てで観る者を圧倒してきたノーラン監督ですが、意外なことに本作が初めての実話モノということになりました。SFと哲学というのがベースにあり、それを映像という中に投影してきた監督さんだけに、実話ベースという逃げられない状況でどのような作品を生み出すのか、僕だけでなく、世界中の映画ファンは注目だったのですが、これがまた新しい戦争映画というジャンルを切り開いたという傑作だと間違えなく思います。僕はどうしても戦争映画が苦手だったのですが、こういう描き方ならありなのかもと思わせるくらいに、のめり込んでみてしまいました。

まず上手いなと思うのは、映像がウリの監督さんだけに、戦争という逃げ場がない状況に観る者を没入させる迫力でしょうか。今回は都合が合わずに、通常シアターでの上映回を観ましたが、IMAXではまさに戦場にいるような体験ができるでしょう。物語としては、3つの視点から描く混成のオムニバスのような形を取りますが、登場する3人の目線で物語を追体験させるような映像視点と、大胆な構成部分以外はVFXを極力使わないという監督のこだわりが映像の中に至るところに感じることができる。何とかしてダンケルクから抜け出そうという兵士の目線からは、砂浜で立ち行かない虚ろな世界観が見えるし、助けに向かおうとする民間船では船内の空気感もリアルに伝わってくる。それに圧巻なのは、味方の兵士を守るべく、ダンケルクの空の上を飛行する戦闘機の迫力。その場にいるというと安易なのですが、何か神の目線になったような空中戦を俯瞰するショットで捉えるのは、一体どうやって撮りあげたのだという迫力に満ちています。

その凄い映像に、哲学的な視点を垣間見せるのも、まさにノーラン流。詳しくは観て欲しいので触れませんが、この3つの異なる目線が「時間」という人が抗うことのできない軸の上で、ダンケルク港という1つの場所に結実していく物語の構成の仕方が美しいの一言。その上で語られるのは、人が人を殺していくという醜い様。あえて、敵であるドイツ軍をカメラで捉えないことで、より戦争で人が醜く命を落とすのか、簡単に命が失われていくのかがより如実に浮かび上がってくるのです。その中で一筋の光として描かれるのが、危険を顧みずに、ただそこにある命を救いたいと船を出す民間船の人々。失われる命が多くある一方で、人の想いが命を救うことを痛切に描いていくのです。敵(人)を殺すことではなく、味方(人)を救うことを注視したからこそ、僕は今までの戦争映画以上に、リアルな戦争を本作は描いていると思うのです。

次回レビュー予定は、「幼な子われらに生まれ」です。

コメントを残す