『カフェ・ソサエティ』:ハリウッドの黄金期とNYのセレブ業界を舞台に贅沢に繰り広げられるラブロメコメ。豪華な舞台だからこそ、アレンが仕掛ける叶わぬ恋の想いにホロッとさせられる傑作!

カフェ・ソサエティ

「カフェ・ソサエティ」を観ました。

評価:★★★★★

1930年代のハリウッド。この地に今、映画業界で働くことを夢見る平凡な青年ボビーが降り立った。生まれ故郷のNYでは平凡かつ貧しい一家で育った彼は、漠然と成功したいという夢は描いていたものの、何をしていけばいいのか分からない状況で故郷を飛び出したのだった。ハリウッド業界の敏腕エージェントである叔父のもとで働き始めた彼は、叔父の秘書を務めるヴォニーの美しさに心を奪われてしまう。しかし、そんな彼女と偶然に楽しい一日を過ごしたボビーだが、実は彼女には妻がある男と密かな情事を重ねていたのだった。。1930年代のハリウッドを舞台に、ウディ・アレン監督が紡ぎ出すロマンティック・コメディ。

年に必ず1作は世に出す多作なウディ・アレン監督が、今回仕掛けた作品は彼の王道ともいえるラブロメコメ。彼のラブコメは人の本性であったり、欠点であったりする部分を嘲笑うそんじょそこらの質の低いコメディ作品ではなく、そのダメダメな人の部分を、その人が持つ愛おしい部分に変えるのだから凄いの一言。アカデミー作品賞になった「アニー・ホール」はまさにそうした人のおかしな部分がコメディでありながら、ロマンティング・ラブドラマになっていく傑作なのです。でも、僕が好きなのは失恋ながらも、どこかシュールな心温まるハッピーさが残ってしまう「アニー・ホール」よりも、ダメだダメだと思いながらも、そのダメな部分を認めてくれた恋人さえも失ってしまう悲劇的な要素を残している「マンハッタン」のほう。どちらにしろ、僕のようなアレン映画好きというのは、どんな人をも愛おしく感じてしまう彼の作品を常に観ていたいと思う中毒にかかってしまっているのです(笑)。

そんなアレン映画好きに是非オススメなのが本作。ヨーロッパに一度拠点を移してから、作風がどこか浮世離れしたところにいってしまった(それでも浮世離れしたところに、「ミッドナイト・イン・パリ」のような作品も生まれてしまうのが凄いんですが、、)彼ではありますが、久々に彼の王道に戻ってきたと感じる作品なのです。もう長いこと自身の作品からは主演を退いているアレンですが、本作のボビーを演じるジェシー・アイゼンバーグが一番俳優アレンが投影されている(ピッタリと重なる)俳優だと思います。それが表現されているのが、ボビーの神経質なまでの繰り広げる会話に現れている。自身の弱さを口にしながらも、相手との会話でどんどん周りを引き込んでいき、ハリウッドでも、そして一度は失恋して戻るNYでも、同じようにその能力でのし上がっていく。自分は知らぬ間に成功していっているのは裏腹に、思い返せば実現できなかった初恋の淡い想い。そう、この映画はハリウッドの黄金期やNYのセレブ界という華やいだ場を贅沢に使いながら、対象的に描くのは叶わなかったあの頃の想いなのです。

恋というのは相手とデートを重ねるような相思相愛のものでも、一方的に想いながらも、遂に気持ちさえも伝えられなかった片想いでも、時や場所を遠く介してしまった今にとっては、誰しも自分の中で強く美化されていくもの。「ラ・ラ・ランド」でもそうでしたが、遠く離れた地点にたった今眺め返すと、その時代や場所が華やかであればあるほど、劇的にも盛り上がったものになっていくのです。本作ではそれをアレン流な愛しき人々で綴った華やかすぎる(映画すぎる)一種のラブ・ファンタジー。たまには、こういう映画に身を委ねるのも悪くないと思える一作になっていると思います。

次回レビュー予定は、「美女と野獣」です。

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