『消えた声が、その名を呼ぶ』:大河ドラマとしては見応えあるシーンは続くが、共感できる要素があまりない。。

消えた声が、その名を呼ぶ

「消えた声が、その名を呼ぶ」を観ました。

評価:★★★

1915年にオスマン・トルコで起こった少数民族アルメニア人の迫害事件を基に、1人の男の9年に及ぶ娘を探す旅路を描いたヒューマンドラマ。9年という年月も壮大ですが、舞台がトルコ、レバノン、キューバからアメリカと舞台を変えて描かれるストーリーも壮大そのもの。監督は「ソウル・キッチン」のファティ・アキンがメガホンを取っています。

外国の映画を観ていると、その国のこと、民族のこと、宗教のこと、そして歴史のことを初めて知ることも多いのですが、本作の舞台になっている第一次世界大戦の、しかも東欧のオスマン・トルコがどういう状況にあったかなどは、いくら世界史を詳しくやっている一般レベルの高校でも知る人は少ないんじゃないかと思います。東欧から西アジアまで勢力を広めていたオスマン帝国において、この1910年〜20年というのは帝国末期であり、勃興していたスラブ勢力に対抗すべく、第一次世界大戦はドイツ側につき参戦。しかし、結局はこれにより国力を更に失うことになり、オスマン帝国崩壊を事実上決定づけていくことになります。その第一次世界大戦参戦中に起きたのが、本作で描かれる少数民族アルメニア人への迫害。トルコ側の言い分としては強制収容中での大量死亡ということにされていますが、これは死の行進と同じ。同時に多くの難民を生むことにもなったというのだから、いつの時代も起こる悲劇というのは変わらないことを痛感させられます。

本作は、そのアルメニア人迫害の中、1人のアルメニア人男性・マルディンが家族と離れ、死の行進の中でも生き残った幼き娘に会うという壮大な旅路を描いています。確かにスケールの大きな話で、舞台もいろいろ変わるなど、大河ドラマ的な一面は十分に迫力として感じるのですが、それが物語として感動できるものにつながっているかというと、イマイチとピンと来ないのが正直なところ。それも時代背景の設定が、やはり日本人としてピンとこないというところに尽きてしまうように思います。確かに、こういう歴史の一面を知れたのは有意義ではありますが、それが物語として感動につながっているかというのは別問題。やはり、そこは入っていく動機づけとしての共感要素が薄いというのが、少し致命的なような気がしてしまいます。

それと各シークエンス毎は感動できる要素が詰まっているものの、物語全体の連続性として迫ってくるものが少ないのも気になることろ。身の危険も顧みず、マルディンを匿う石鹸工場の男や、マルディンがチャップリンの映画に自分の娘の姿を投影するなどのいいシーンがあるのだけど、それがドラマの中にうまく要素として絡み込んでこないのがもどかしいところでもあります。しかし、ラストシーンも含め、映画として見栄えのあるシーンが連続するので、大作映画を観た満足感には十分に浸ることはできると思います。

次回レビュー予定は、「最愛の子」です。

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