『クリード チャンプを継ぐ男』:「ロッキー」を知らない人ほど観て欲しい、ボクシング映画の傑作!!

クリード

「クリード チャンプを継ぐ男」を観ました。

評価:★★★★★

シルヴェスタ・スタローン主演で1976年に公開された「ロッキー」。この年のアカデミー賞作品賞に輝いた、この作品は1982年公開の「ランボー」とともに、スタローンの代名詞ともなる映画シリーズとなっているのは周知の事実。「ロッキー5」まで公開された後、2006年に「ロッキー・ザ・ファイナル」という形でシリーズは一旦幕を閉じたはず、、でしたが、今回ロッキーシリーズの系譜として公開されたのが本作。「ロッキー」にそれほど愛着がなかった僕は当初は観る予定をしていませんでしたが、本年度(2016年)のアカデミー賞助演男優賞として、本作でスタローンがノミネートされ、受賞予想の大本命ということも聞き、公開最終週での飛び込み鑑賞となりました。これが実によかった。本作をスクリーンで見れたことに素直に感謝したい傑作でした。

そもそも僕は過去5作公開になっているロッキーシリーズのうち、76年公開の「ロッキー」しか観たことがありません。それもだいぶ昔にレンタルビデオで借りて、観た覚えがあります。そのときの印象は、とにかくいい意味でも悪い意味でも、”熱さ”という感情一本で作られているということ。こと1970年代の映画というと、「フレンチ・コネクション」(1971年)にしろ、「エクソシスト」(1973年)にしろ、狂気であったり、恐怖であったりというのが、映像に生のむき出しで表現されていて、ダイレクトに脳天に突き刺してくるような作品が多く、「ロッキー」はその代表だと僕は未だに思っています。激しく汗の匂いや血の味までもがスクリーンを突き抜けて、こちらにダイレクトに伝わってくる。ラストのロッキーの歓声から、エイドリアンとの激しい抱擁までが怒涛のように入り交じる、あの喧騒は映画の中でも屈指の名シーンだと思います。

確かに「ロッキー」は名作ですが、ボクシングとか、格闘技とかが、あまりスポーツとして好きではなく、それが理由でボクシング映画というのも触手が動かないジャンルの作品でもありました。それが冒頭のようにギリギリで観ることになり、そうした自分の見識が誤っていたということを素直に思い知らされました。

本作の主人公は、小さい頃から揉め事を起こしやすかった黒人青年アドニス。彼は「ロッキー」でロッキーと対戦したアポロ・クリードの血を受け継いだ息子だった。幼き頃に死んでしまった父の面影を知らないアドニスだが、父の遺伝子からかボクシングを始め、それを本格的に極めるため、父と対戦したロッキーが住むフィラデルフィアにやってくる。すでにボクシングを辞め、レストラン経営に精を出していたロッキーだったが、アドニスがアポロの息子と知り、自分の技を一から仕込むべく、アドニスのトレーニングを開始していくのだった。。

本作は「ロッキー」及びシリーズ作品を知っている人なら、過去作に登場したシーン、舞台、キャラクター、台詞に至るところまでを思い出させるようなところが随所に見受けられます。そこで伝わってくるのは、ボクシングというスポーツを通した生き方というのは、「ロッキー」が作られた1970年代であっても、今であっても普遍だということ。だからこそ、僕は本作を「ロッキー」を観ていない人でも観て欲しい。「ロッキー」を観るための入門作としてもオススメできますし、”ボクシング=人生を生きる道”なんだとする、1人の男の熱い生き方(それはアドニスだけではなく、引退したロッキーも含め)を見つめたい人にも推薦できます。映画終盤の試合シーンは今思い返すだけでも鳥肌が立ってしまうくらい、すごく興奮できること請け合いです。

あとはとにかく、この映画のスタローンはいいんです。よく日本ではスタローンとシュワルツネッガーが80〜90年代アクション映画の双頭みたいに言われますが、ここ数年は、いつまでも今までの殻が破れないシュワちゃんを差し置いて、スタローンは変わりました、、、いや、正確には、2010年公開の「エクスペンタブルズ」を期に変わったと思います。それまでは映画の中心でいたがった彼ですが、多くのアクション俳優との文字通りの饗宴ともなった「エクスペンダブルズ」で、主役ながらも、他の俳優をアクションとして押し出し、自分はどこか脇にまわる立場になってから老練した、いい味が出るようになったのです。その集大成が本作に表れていると思います。「ロッキー」ではアカデミー賞受賞はかなわなかった彼ですが(受賞は作品賞のみ)、今回は受賞確実でしょう。

本作の監督は「フルートベール駅で」のライアン・クルーガー。主演のアドニスを演じるのは同じく「フルートベール駅で」でクルーガー監督と組んだマイケル・B・ジョーダン。「フルートベール駅で」もそうでしたが、マイケル・B・ジョーダンは肩肘の張らない演技を普通にできるのが、すごく魅力の俳優さんです。黒人俳優というとデンゼル・ワシントンにしろ、ジェレミー・フォックスにしろ、過去のアカデミー受賞俳優を見ても、どこか主張の色が濃い役者さんが多いイメージですが、彼は柔和な演技ができながらも、そこに存在感を両立できる類まれな才能を持っていると思います。本作でも、どこか線の細い黒人青年が、ボクシングだけではなく、恋人の出会いや自己の葛藤などの人生経験を積んで、一段と魅力あるボクサーに成長していくのがつぶさに分かるのです。彼がアカデミー賞ノミネートされるのも、遠い日ではないと思います。

次回レビュー予定は、「消えた声が、その名を呼ぶ」です。

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