『午後8時の訪問者』:ある事件をキッカケに、医者という仕事にとことんのめり込む女性の姿をあぶり出す良作!

午後8時の訪問者

「午後8時の訪問者」を観ました。

評価:★★★

女医として活躍するジェニーは、担当医が病気になったとある街の診療所の手伝いをしていた。診療時間を過ぎた午後8時、診療所で残務をしていたジェニーは鳴ったドアベルに応じなかった。翌日、ベルを押していた少女の遺体が発見される。警察から診療所の防犯カメラの映像提供を求められた彼女は、ベルに応じなかった後悔の念から犠牲者となった彼女の足取りを探り始めるのだが。。「サンドラの週末」のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督によるヒューマンサスペンス。

つい先日感想文を書いた「わたしは、ダニエル・ブレイク」の監督ケン・ローチが、イギリスの低所得者階級を描くヒューマンドラマが多いのに対し、それのフランス版というか、フランス、ベルギーなどを舞台に同じような中層下層の人々のドラマを手がけることが多いのが、本作の監督であるダルデンヌ兄弟監督。2002年の「息子のまなざし」以来、結構な作品を見ていますが、彼らはケン・ローチと違って、社会派のテーマをダイレクトに扱うというよりは、ヒューマンドラマの要素を前面に出して、じっくりとドラマを積み上げることにポイントを置いています。前作「サンドラの週末」もそうでしたが、そうした小さな積み上げがより私たちの日常に近いという感覚を感じることができるのです。

本作は、ダルデンヌ兄弟監督としては珍しいサスペンス要素も盛り込んで入るものの、やはり中心として働くのはドラマの要素。特に、主人公であるジェニーがとことん自分の医者という仕事に対して、貪欲というか、実直までに尽くしていく様というのが観ていて凄くジワジワと感じる感動につながっていると思います。個人的にも医者を職業にしている人との関わりは深いのですが、彼ら彼女らの仕事ぶりでほんとうに頭が下がるなと思うのは、自分の生活を無視とは言わないまでも、かなりの部分を捧げながら、医者という仕事に人生を捧げている人が多いということ。本作のジェニーも、最初は手伝いという身でしかなかった診療所での仕事を、事件を機に自分の本職としてしまうところや、事件だけでなく、診療所を訪れる一人一人に対して顔が見えるケアを行ったり、医学生に対する育成指導にも身を粉にするなど、人として尊敬に値する以上の実直さを魅せてくれます。そんな彼女だからこそ、自らの不意であったベルに応えなかったという行為に対し、とことん後悔をするとともに、周りが引いてしまうほど事件にのめり込んでしまう行動も理解できてしまうのです。単純にワーカーホリックになっている女性という以上に、物語として納得させるまでに描く演出術に、ダルデンヌ兄弟監督の腕を感じれる作品になっていると思います。

次回レビュー予定は、「しゃぼん玉」です。

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