『わたしは、ダニエル・ブレイク』:孤独と貧しさに押しつぶされながらも、前向きに生きる人々の姿に心強いパワーを貰える作品!

わたしは、ダニエル・ブレイク

「わたしは、ダニエル・ブレイク」を観ました。

評価:★★★

ダニエル・ブレイクはイングランド北東部のニューキャッスルに住む大工。しかし彼は心臓疾患により医師から仕事を止められている。自宅で趣味がてらに簡単な工芸はしているが、福祉手当や就業支援を受けようにも、複雑な制度に翻弄され支援を受けられないでいた。そんな最中、手続きに来た福祉事務所で手助けしたシングルマザーの家族と出会う。彼女らと交流を深め、貧しくとも支え合おうとしてきたが、現実はよりいっそう厳しくなる一方だった。。イギリスの下層階級の人々をフューチャする数多くの社会派作品を打ち出し、一度は引退を宣言したものの、再びメガホンを取ったケン・ローチ監督が二度目のカンヌ国際映画祭パルムドールに輝いた社会派ドラマ。

妻に先立たれた孤独な中年男性が、ある家族と出会って心の交流をしていくというドラマの形としては、先日観た北欧映画「幸せなひとりぼっち」に話はよく似ていますが、さすがケン・ローチの作品なだけあって、色付けとしてはイギリスの低所得者向け福祉制度や就業制度の問題点にフォーカスした作品になっています。僕も社会的な立場としては障害者であり、様々な福祉制度を使わせていただいていますが、面倒なことに基本は全て申告性。例えば、病院に通院して、診察や治療を受けた料金の還付制度を受けたい場合もイチイチ書類を書いて出さないといけなかったり、税金の還付にしても、(まぁ当たり前ではありますが)会社員時代も毎年のように確定申告していました。今住んでいる場所の市役所や福祉の窓口はとてもわかり易く対応してくれますが、東京や大阪などの大都市に住んでいたときは、やはりサービスを受ける人の数も多いので、窓口も結構待たなければならなかったり、情報がどこに書いてあるのか分からなかったり、とても複雑で還付をさせないようにわざと分かりにくくしているんじゃないかと思うこともしばしばありました。なので、本作のダニエルがぶち当たる壁というのもとても理解できるのです。

本格的に少子高齢化社会に突入している日本ですが、やはり高齢者を中心に福祉サービスを受ける人は増加してきています。低成長社会で、国や地方の財源も小さくなってきている中、いかに個人の生活の質(QoL)を上げながら、拡大している医療や福祉に関する費用を抑えていくかを考えるのは急務だと思います。僕自身の考えとしては、各個人の能力や幸せの定義も違う中で、如何に長く社会の中で働ける(もしくは動ける)環境を作りながら、行政の支援サービスも申告型ではなく、給付型に移行していくようにしないといけないと思っています。映画の中でも、申請はオンラインだけです、、と冷たく当たるところもありますが、単にネットにするだけではなくて、もっと有用なITの使い方もあるのかなと思うのです。この辺りは、自分の信念ともつながってくるところなので、思うところがいろいろある鑑賞となりました。

という話は横に置いておくとして、映画としては「幸せなひとりぼっち」に比べると社会派なだけ、どうしても堅い風合いになってしまうのは仕方がないかなと思います。本作は心の交流をしながらも、ダニエルの生活はどんどん貧しくなっていくのがとても心苦しくなってくる。ただでさえ、孤独な中で生きなければいけない中高年の一人暮らしだからこそ、この貧しさということがそこに加わると、それだけで生活自体に余裕がなくなってしまうのです。だからこそ、この貧しさのフィルターを取ってあげなければならない。そこに強いメッセージ性を感じる作品となっています。

次回レビュー予定は、「ハードコア」です。

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