『幸せなひとりぼっち』:孤独に、哀しく生きてきたと思っていた老人が悟る幸せな人生!!

幸せなひとりぼっち

「幸せなひとりぼっち」を観ました。

評価:★★★★

気難しいオーヴェは妻に先立たれ、生きる希望を失っていた。そのうえ、近所の人々は自分の気を荒立たせるような迷惑な人々ばかり。しかし、隣りに引っ越してきたパルヴァネ一家から次々に厄介事を持ち込まれるうちに、塞いでいたオーヴェの心が開いていく。。世界30カ国以上で刊行されるフレドリック・バックマンの小説をベースに、人の生き方について問いかけていく人間ドラマ。監督は「青空の背後」のハンネス・ホルム。スウェーデンのアカデミー賞にあたるゴールデン・ビートル賞で主演男優賞と観客賞に輝くとともに、今年のアカデミー賞にスウェーデン代表として外国語映画賞にノミネートされたことでも話題となっている作品です。

歳をとるということは誰にとっても嫌なこと。それは自分の身体が徐々に思うようにいかなくなるとともに、家族とも疎遠になったり、周りの親しかった友人・知人も他界するなど、段々と自分の関われる範囲が減ってくるから。僕自身も周りの年上の知人や、祖父母・両親の徐々に年をとる姿を観ていて、身体の老化や病気どうこうは仕方がないものの、考え方が頑固になったり、行動力が極端になくなってくる様子を見ていると、自分はこうはなりたくないな、、と思ってしまいます。それと合わせて思うのが、やはり歳をとってくると、経験は増えるものの、過去の想い出(楽しいものの、悲しいものも含め)に囚われて、ふと自分が孤独になったときに、その想い出に苛まれてしまうのです。身体が動けなく、しかも、周りに話せる友人がいなくなると、途端にそういう思いのはけ口がなくなってしまう。自分で昇華できるような強い人はいいのですが、大抵の人はそうでもない。。独居老人問題というのは、得てして社会的な問題でもあるのですが、こうした心の問題もはらんでいると僕は思うのです。

本作「幸せなひとりぼっち」は、まさにそうした思いに囚われた主人公オーヴェの、幸せになっていく老後を描いているのです。彼の抱える気難しさを、最初はクスクス笑えるコメディとして描いていきます。ぶつぶつ文句をいいながら、時には厳しい言動もしながら、結局は他人を助けてしまう優しい老人オーヴェ。可笑しいのは、そんな自分は嫌だといいながら、ふとしてしまう優しい行動を隣人のパルヴァネ一家が見抜いてしまうこと。他人を他人としてしか思えなかった独善的な自分が、実はいろんなところで必要とされているということを、一家によってうまく発見・誘導されていくオーヴェ。周りをようやく信頼し、自分では抱えきれなかった暗い過去を吐露したとき、初めてオーヴェは前を向いて生きていくことの素晴らしさを悟るのです。

ドラマとしては結構ありがちな老後ドラマな流れではありますが、本作で気付かされるのは、幸せになるということは自分の中だけでは完結しないということ。お金を稼ぎ、好きなところに住み、欲しいものを買う、、、こうした物で自己完結する幸せは結局底が浅いのです。どんなに貧しくても、どんなに孤独でも、幸せになれるのは、どれだけ人を愛し、人を許すことができるかということ。人間が社会的な生き物なんだということを、よく理解できる作品になっています。

次回レビュー予定は、「アイヒマンを追え ナチスがもっとも畏れた男」です。

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