『ザ・ウォーク』:この映画には大事な祈りが含まれているからこそ、3Dが必須の演出要素となっている!

ザ・ウォーク

「ザ・ウォーク」を観ました。

評価:★★★★

3Dの字幕版にて。

1974年当時、世界一の高さを誇ったワールドトレードセンタービル(WTCビル)。その建設途中のWTCビル2棟の間にワイヤーをかけ、その上を綱渡りをした実在のフランス人曲芸師フィリップ・プティの挑戦を劇映画とした作品。ちょうど本作は、2009年に「マン・オン・ワイヤー」という題名でドキュメンタリー映画(しかもアカデミー賞受賞作)としても公開されており、本作でプティその人に興味を持たれた方は是非観て欲しいとも思います。翻って、本作ももちろん素晴らしい。1つの夢、1つの挑戦に身を捧げた男の熱いドラマが、3Dという視覚効果とともに美しく語られていくのです。

本作の魅力は何といっても圧巻の3D映像。「アバター」から始まり、大作感のあるアクション映画では3D作品というのが当たり前に作られるようになってきましたが、最近のものはどれもこれも、3Dで見ても、2Dで見ても、どちらでも同じような感じで見れるような作品ばかり。ハンバーガーショップのセットメニューのオマケ的な役割にしか役目の果たせていないのです(まぁ、大半が2Dから3D映像を起こしている映画ばかりなので、しょうがないのですが。。)。だけど、本作だけは別。これは3Dという視覚効果があってこそ、映画として活きてくる大事な要素になっているのです。それはもちろん映画の終盤にあるWTCビルでの綱渡りシーンだけではないのです。映画序盤にあるプティが曲芸師としての道を歩み始め、小さい高さでの綱渡りを始めるところから、この3Dの効果が現れるような絵作りをしているところが素晴らしいのです。そのどれもこれもプティが腕を上げていくパリの街角で、パリの街角の風景にうまく融合するように映像を構成していくところも素敵の一言。フランス語のシーンも巧みに織り込んで、ハリウッド映画感があまり感じられないところも、センスの良さを感じます。

それにドラマとしての構成も実にいい。プティが自由の女神を背景にし、モノローグで過去を振り返っていく回顧形式で物語を紐解いていく手法も、まるで舞台劇を見ていくような楽しさを感じます。一人の男の夢が、なぜWTCビルを綱渡りすることなのか、、というところが、作品のテーマ的にも若干入っていきづらいところではあるのですが、登山にしろ、フルマラソンにしろ、困難な状況に立ち向かっていく男の挑戦物語というのは、その夢自体が共感できるものではなくとも、夢に挑戦する姿自身が美しく、心を揺さぶるものには違いありません。なので、夢を実現していく過程はつぶさに見れるのとは対極的に、夢を実現させる後半部が若干呆気なくも感じられますが、それは夢の実現に向けるときに展開されるドラマと違い、夢自体は呆気なく終わる現実をむしろリアルに描いているようにも思います。作品としては、この程度がまとまりもあっていいように感じました。

それ以上に、やはりこの作品が深遠なテーマを含んでいるのが、皆さまもご存知のように、映画の象徴であるWTCビルが今はないという事実でしょう。本作は舞台となるWTCビルがとことん荘厳に描かれていることで、今はなき、この場所が祈りの場でもあり、悲しみの場所であり、聖地でもあることを暗示しているように思います。それは過去何か大きな災いがあった後に建てらる寺社仏閣とは真逆で、映画の中で、それ以後に起こった大きな災いを収めるために、この壮大な映像が伽藍として逆に見えているようにも思えてくるのです。この壮大な祈りが含まれる作品だからこそ、3Dで、その場の高さ、そこに吹いた風を観客に感じさせることが必然だったようにも感じます。

次回レビュー予定は、「の・ようなもの のようなもの」です。

おまけ:参考までに、「マン・オン・ワイヤー」の予告も貼り付けておきます。

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