『ミュージアム』:【少々ネタバレあり】レベルが高いサスペンス・スリラーではあるが、モノマネしている2本の映画のどちらかに絞ったほうがいい。。

ミュージアム

「ミュージアム」を観ました。

評価:★★☆

残忍な猟奇殺人事件が続発する。捜査を進める沢村刑事は犯行がいずれも雨の日に起こるのと、現場に残されたメモから、犯人は殺人死体そのものを、まるで芸術作品のように見てもらいたがっていることを推測する。やがて、事件が過去のある少女殺人事件に起因していることを突き止めたとき、カエルのマスクを被った自称・芸術家のカエル男が犯人として浮上してくる。しかも、カエル男は突如沢村刑事の前に現れるのだった。カエル男を追う沢村だが、逆にカエル男に追い詰められていくことになっていく。。巴亮介の同名サスペンス漫画を、監督に「るろうに剣心」シリーズの大友啓史が、主演に小栗旬を迎え映画化した作品。

本サイトの映画感想文は基本的にネタバレしないように書いてきましたが、本作の感想を書くにあたって、【少々、ネタバレをします】っということを宣言します。ネタ明しまではしませんが、鑑賞のファースト・インプレッションを大事にする方は、以下は読まれないことをオススメします。。

と書いたところで、本作は原作があるのでなんとも言えないですが、映画好きにしてみれば、前半はフィンチャー監督の「セブン」であって、後半は日本でもヒットしたサイコスリラー映画の「SAW」そのものを追っているように思います。雨の日にしか起きない殺人、何かに暗示されたように起こる連続殺人と、各現場に残されるメモ、、それに刑事が幸せな家庭内にも、どことなく不協和音が響いてきそうな雰囲気まで、前半はホントに「セブン」にそっくり。犯人が中盤に突如目の前に現れるのも同じ。同じように行方不明になる刑事の家族という設定も同じ。ただ、「セブン」が後半は犯人に心理的に追い詰められていくのに対し、本作ではカエル男がリアルに沢村刑事を追い込んでしまう。沢村が狭い空間に押し込められてから、今度は「SAW」が始まるのです。このモノマネ具合には笑っちゃうほどですが、決してそのマネが軽いものになっていないのです。ここまで、「セブン」っぽいサスペンス・スリラー、「SAW」っぽいサイコスリラーが日本映画でも成立させるところが、本作の凄いと思わせる部分なのです。

ただ、僕はこの前後半が同じスリラーでも、サスペンスとサイコという違う色になってしまったのが惜しいかなと思います。物語からして、犯人の背景とかも考えると、サスペンスというよりはサイコ劇を中心にして、その中でサスペンス的な要素を差し入れたほうがよかったように思います。サスペンス一本だと、犯人の作品としての殺人という犯行理由がどうしても軽いものになってしまい、それを補うようなサブエピソード(例えば、沢村刑事一家の話であるとか、部下の西野刑事の話であるとか)が薄っぺらいので、どうしてもドラマとしての重厚感がでない。ならば、犯人は誰かという点のみにサスペンス要素は抑え、あとはカエル男がつくる恐ろしい殺人芸術の世界に沢村を最初から放り込み、その世界を迷いながら、事件の全体像を浮き彫りにしていくという、それこそ「SAW」の世界一本にしたほうがよかったです。スリラーとしていい要素はいっぱいありますが、欲張りすぎて損をしているように思えてなりません。

それにしても、妻夫木演じるカエル男が実にいい。彼のこういうぶっとんだ演技も初めてみました。上手いけど、どこか作品による役柄による違いが出ない小栗旬との対比が、いい意味で出ているように思います。

次回レビュー予定は、「疾風ロンド」です。

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