『五日物語 3つの王国と3人の王女』:3人の女性の本能がままの物語に、人の根幹にある醜さがジワリと揺さぶられる美しきファンタジー!

五日物語

「五日物語 3つの王国と3人の王女」を観ました。

評価:★★★★★

1つの物語は、母となることを追い求める女王。怪しき者から海に住む魔物の肉を頬張れば、すぐにでも懐妊すると聞かされるが。。もう1つの物語は、若さと美貌を熱望する老婆。見かけによらず歌声だけが素晴らしく、たまたま城からその美声を聞いた王に恋心を抱かせるが。。あと1つの物語は、大人の世界への憧れを抱く王女。世の中に退屈し、醜悪なものを愛でる父親の思いつきで、決して分からない難問を使って王女のフィアンセを求めようとするのだが。。各世代の女たちの残酷なまでの性(サガ)を映し出す。「ゴモラ」のマッテオ・ガロ-ネ監督が、17世紀初頭の民話集『ペンタメローネ[五日物語]』の中の3話を映像化した作品。

本作の原題(英題)が、「TALE OF TALES」(お伽噺の中のお伽噺:直訳)ということからも、世にいう残酷なお伽噺を描いていくダーク・ファンタジー。今までも、この手の作品は「スノー・ホワイト」とか、「パンズ・ラビリンス」などの作品がありましたが、造形だけではなく、物語も含めて、全て嫌な感じをじっとりと味わえるという本物感は本作が一番だと思います。3つのオムニバスの作品の中で、母になりたい、美しくなりたい、早く大人になりたい、、というそれぞれの強い願いに対して、願いは叶うが、その願いの代償という形で手痛いしっぺ返しを食らってしまう。願いも祈りのような形で昇華できるうちはいいのですが、何が何でもという形の渇望に変わってしまうと、たとえその願いが叶おうが、強く引っ張ったバネの反発が強いように、大きな人生の反動が自らに降り掛かってくるということを残酷すぎるくらいに描かれるのです。それも人の五感と呼ばれる感覚器にリアルな刺激がやってくるのです。これは凄いのですが、ホラーとはいわないまでも、相当覚悟して観たほうがよいかもしれません。

あと、もう1つキーとなってくるのが、ここに描かれる物語の主人公が女性ということ。男女の性差をつける気はないのですが、僕が今まで関わってきた女性を見ていての女性観というのは、男性に比べ、物事に対して沈着冷静に進められる能力が高いということ。仕事とかでも、男性はどちらかというと一緒に仕事をする人間関係だったり、本人の近況だったり、感情に左右されることが多いのですが、女性はよい意味で、そういう感情と仕事を区別して淡々と物事をすすめることに長けている。本作でも、そういう強い女性像が貫かれていて、登場する全ての女性が自分の願いに対して、まっ直線に進んでいく。母になりたい女性は海の魔物の肉を貪り、美しさを追求する老婆はとことん自分の肌を弄くり、大人になりたい若き王女は必死に周りに訴えかけて状況を改善しようとする。無論、お伽噺なので、あえて本性むき出しな様相であるのですが、それも人間の本性をついているようで見ているコチラの心の底をえぐり出すのです。

そして、本作で一番素晴らしいのが、まるで絵画のような計算された構成美でしょう。美しい風景美の基本として、近景、中景、遠景を1枚のショットの中に写し込み、絵としての遠近感をつけることにあるのですが、本作で印象的になっているパノラマショットでは何枚も、この絵画的な構成美を実現しているものがあるのです。海の中の魔物に対峙するシーン、息子を救うために自分が魔物に取り込まれていくシーン、醜い老婆が魔女によって美女に変えられるシーン、鬼とのこと終えた王女が父親に迫るシーン、、エンドロールでは「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」のそれと同じようなレイアウト画がでてきたりもしてきますが、原色を多めに使った衣装といい、美術好きにはたまらないほどの美しいショットがたくさんあるのです。これは「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロの怪獣映画っぽい現代美術とはまた違い、中世ルネサンス期のような絵が映像として動いていくイメージに近いです。これをスクリーンで見れるだけでも、充足感に足る作品だと思います。

次回レビュー予定は、「ミュージアム」です。

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