『聖の青春』:29歳で急逝した天才棋士の短き生涯。才能があってもなくても、生きるという苦しみは一緒!

聖の青春

「聖の青春」を観ました。

評価:★★★☆

幼少の頃からネフローゼという腎臓の病を抱える村山聖は、幼き頃の入退院を繰り返す生活の中で、父から教わった将棋にのめり込んでいく。やがて、プロの棋士を目指すようになり、生活全てを将棋に没頭。15歳から師匠となる森信雄の下で、大阪にて10年間の修行生活を送る。1994年、七段となった聖は最高峰の名人位を目指し、家族の反対を押し切って上京する。生活は将棋のみで荒んだ生活を送っていたが、周囲に支えられながら、命を削るように将棋を指し続ける。そんな聖の前に立ちはだかったのは、前人未到の七冠を達成した同性代の羽生善治だった。。難病と闘いながら将棋に情熱を注ぎ、1998年に29歳で早世した棋士・村山聖の生涯を追った人間ドラマ。第13回新潮学芸賞、将棋ペンクラブ大賞を受賞した同名ノンフィクションをベースにし、監督は「宇宙兄弟」の森義隆が務めています。

僕は小学生の頃、実は町内の囲碁クラブに通っていたことがあります。特に、何がというキッカケはなかったんですが、当時のファミコンで父親がなにげなく買っていた囲碁ゲームにハマった(将棋もあったけど、囲碁でした、、)のと、囲碁のルールはイマイチ分からなくて誰かに教えてもらいたくて通い始めたように思います。でも、一年くらいしか続かなかったですけどね。。言いたかったのは、当時は囲碁や将棋といえば、お年寄りがやるものというイメージが田舎では強く、小学生や中学生でやっている人は相当に渋い人という感じがしていました。2000年くらいから、囲碁や将棋がジャンプなどのコミックで取り上げられ、その頃は小中学生でも当たり前にできるような空気感があったかと思いますが、それ以前というのは、やはり大人の遊びという感覚があったかと思います。その中でプロとしてのし上がってきた羽生善治という人は、棋士界を変えた人であり、日本将棋界を変えると、一般のニュースでも大きく取り上げられた記憶があります。本作は、その将棋界で羽生名人と同じく棋士界に、さっそうと現れた一人の棋士に焦点が当たっています。

本作で、僕自身は村山聖という人物を知ったのですが、本当に彼の将棋にかける想いというのが伝わってくる作品でした。それと同時に印象的だったのは、染谷将太演じる江川貢という若手棋士の存在。彼は聖と同じ森師匠の元で生活をしていたのですが、聖ほどの才能には恵まれていない。才能には恵まれているが、難病で命の先がない聖と、逆に、才能に恵まれない江川。この2人の対比が実に強烈に映るのです。凡才である江川は才能がないことに苦しみ、聖や羽生名人のような天才は自分が進む道に不安を感じる。才能がない人は才能があるかどうかが気になるが、才能がある人は自分の能力云々より自分のやっていることが気になる。それぞれに立つスタンスが違いながら、同じ時代に生き、いろいろな形の生きる苦しみに苛まれる。その苦しみのぶつかり合いが、いろんなドラマを生み、端的に、ストレートに、いい作品になっているのです。

聖演じる松山ケンイチは本作のために大幅な増量、羽生演じる東出昌大も羽生名人が七冠を獲得したときのメガネを借りて、自身も羽生の所作をよく研究して望んでいます。数少ない邦画の鑑賞歴ですが、海外作品でアカデミーを取るような作品では何作も役作りを完璧にする役者はいるものの、本作ほどの役の作り込みを行っている邦画は初めての観たような気がします。ただ、これだけ役者が研究をしてくれているのに、数シーンでの時代考証に??マークをつくものが少々見受けられます。時代設定が1990年代ということから、その当時では決してないものがカメラに写り込んでいるのです。いちいち何がどうと、揚げ足を取るようなことはしませんが、これだけ力のこもった作品なだけに少し残念な気がしてしまいました。

次回レビュー予定は、「メン・イン・キャット」です。

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