『オケ老人!』:老人ばかりのオケが辿る奇跡。オケ自身よりも周りの人物がドラマを回していく面白さ!

オケ老人!

「オケ老人!」を観ました。

評価:★★★

音楽を愛する新任の高校数学教師・小山千鶴は、地元の梅が岡フィルハーモニーの演奏会に感動し、入団を決意する。しかし、勘違いから彼女が連絡をしたのは、老人ばかりのアマチュアオーケストラ”梅が岡交響楽団”。梅が岡フィルハーモニーとは全く別のこのオーケストラは下手な老人ばかり。久しぶりの新規入団に、歓喜する老人たちに真実を言い出せない千鶴は、ついには指揮棒を振ることにもなってしまうのだが。。荒木源の同名小説を原作に、「ぱいかじ南海作戦」の細川徹監督が映画化した作品。

非常に難しい作品をよく映画化したなと思った作品。間違ったアマチュアのオーケストラに入団してしまった千鶴が、一曲も通して演奏することができない下手だが、親切な老人たちの前に退団を言い出せず、指揮者の怪我によって、一番音楽ができると指揮者にまで祭り上げられるといった内容。ここまでなら、下手なオーケストラが熱血な新人によって蘇っていくお話かと思うのですが、実は千鶴自身も、演奏も、音楽の才能も、梅が岡交響楽団の老人たちよりはマシだが、一流の演奏ができる梅が岡フィルのメンバーほどではない。ましてや指揮者としての経験もない。しかし、千鶴にしても、老人たちにしても、梅が岡フィルに負けないのは音楽に対する愛情と、それにプラスして楽団としての団結心。それが梅が岡交響楽団を取り巻いている人たちの心を動かし、楽団がより上手くなる方向に力が働いていくのです。

まぁ、悪く言っちゃうとご都合主義なところが多い脚本なのですが、それでも登場しているキャラクターがすごく真摯な眼差しを持っているので、人間ドラマとしても十分に力を持ったものに仕上がっていると思います。特にいいのは、それぞれの役柄を楽しそうに演じている役者陣。彼らのいい空気感がスクリーンから直に伝わってきて、それと美しいクラシック音楽のメロディが観ている人の心を癒やしてくれるのです。予告編を観て分かるように、梅が岡交響楽団の老人たちが実に楽しい。この老人たちに主演の杏がだいぶ支えられています。それに脇を固めるキャラクターが非常にいいんです。千鶴の憧れであり、うっかり者でもある坂下を演じる坂口健太郎はもとい、千鶴が務める学校の生徒であり、指揮者・秀太郎の孫である和音役の黒島結菜、その恋人のコーイチを演じる萩原利久が物語を底から回していく役柄を好演しています。オケ自身ではなく、オケによって動かされる周りの人々のほうが物語として重要になってくるだけに、彼らの印象的な演技がしっかりとした作品の土台となっているのです。

ただ、日本の音楽映画は海外のそれと比べて、演奏シーンなど、どうしてこんなに稚拙になっちゃうんだろうとも思ってしまいます。役者が演奏するシーンを”演じること”は難しいとは思うのですが、音楽が少しでも分かる人が見ると、指の動きであったり、身体の動きであったりが、曲と合っていないといかにも嘘くささが漂ってしまうのです。せめて、その動きだけでもきっちりと監修して欲しいな。。本作も頑張っていますが、少し気になるシーンがチラホラと見られてしまいました。本作ではそれが作品の評価を大きく下げるほどではないですが、クオリティが高いだけでも評価は違ってくるので、日本映画業界全体が努力して欲しいなとも思います。

次回レビュー予定は、「聖の青春」です。

コメントを残す