『白鯨との闘い』:この邦題が全然イケていないのを始め、映画としてもチグハグなところが目につく。。

白鯨との闘い

「白鯨との闘い」を観ました。

評価:★

3Dの字幕版にて。

ハーマン・メルヴィルの代表作でもあり、アドベンチャー小説の先駆けともなった名作「白鯨」。本作は、その「白鯨」のモデルとなった歴史上のドラマを取り上げた、海洋スペクタクル・ドラマとなっています。メガホンを取るのは、「アポロ13」や「ビューティフル・マインド」などの作品で知られるロン・ハワード。主演は、「マイティ・ソー」のソー役でブレイクし、ロン・ハワード監督とも「ラッシュ/プライドと友情」で組んだクリス・ヘムズワーズが務めています。

僕は小さい頃に「白鯨」を地元の図書館で借りたまま、今でも借りパクしている状態にある(多分、実家の本棚に並んでいる)曰くつきな思い出がありますが、「白鯨」で感じたクジラを追いかける男たちのダイナミックな物語を想像していたのを、昨日のように覚えています。その着想となった史実の物語を描くという本作は、なおのことダイナミックな映画になっているんだろうな、、と思っていましたが、映画本編を見始めると、なかなかクジラが現れない。クジラにたどり着くまでのドラマが果てしなく長いのです。オマケに、やっとのことで登場したクジラもそんなに大きく物語に絡んでこない。それこそ、「白鯨」に登場するクジラは主人公たちの因縁ともいえる間柄で、物語の中でも繰り返し登場し、男たちが見る夢の中にまでも登場してくるのに、本作のクジラについては、何ともまぁあっさりとした描写に過ぎない。史実とフィクションは違うといってしまえばそれまでなのですが、「白鯨との闘い」という邦題に期待した客にとっては、非常に物足りない作品になっていると思います。

そもそも、本作の原題は「IN THE HEART OF THE SEA」。直訳が難しいのですが、「海に対する人々の想い」といったところでしょうか。それは映画が、舞台となったエセックス号の航海を体験し、今も生きる生き証人の語りを、後に「白鯨」を著すメルヴィルが聞いていくという回顧形式になっているところも、この原題が付いていることと深く関わっていると思います。実際のエセックス号の航海は、想像以上の辛く険しいものだったということ。クジラとの闘いもそうですが、生き延びるために、乗組員たちがどういう想いをもって行動を起こしていったかというところに焦点が当たっているのです。僕は、「白鯨」どうのこうのより、エセックス号で起きた事件を史実として知っていたので、それが描かれる後半に物語の核があると感じました。それにメルヴィルが実際の物語を聞く中で、なぜあまり登場しないクジラとの闘いを「白鯨」ではメインにしていったのか、、というところにも、実は海の男たちへの想いが込められているのです。きっと、ハワード監督は史実から紡ぎだされる、物語の裏の真実を描きたかったのではないかなと思うのです。

それを思うと、この「白鯨との闘い」という邦題が如何にイケていないのかが、よく分かります。本作を見る人は、きっと「ライフ・オブ・パイ」のようなサバイバル海洋ドラマを望んだでしょうが、むしろ本作はちゃんとした文芸作品として取り扱われるべきで、もう少し小さな公開規模で興業したほうがよかったようにも思います。それに(僕が鑑賞した時は)スクリーンサイズがビスタサイズで上映されていたように思うのですが、海洋モノなのに、なぜシネマスコープではないのだろう、、と余計なところにも気になったのも、マイナス評価してしまう部分です。

次回レビュー予定は、「シーズンズ 2万年の地球旅行」です。

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