『われらが背きし者』:重厚な味わいのする秋にピッタリのスパイ映画。男の持つ強さと弱さをうまく垣間見せる秀作!

われらが背きし者

「われらが背きし者」を観ました。

評価:★★★★☆

英国人大学教授ペリーと妻ゲイルは、モロッコで休暇中だった。休暇中でもひっきりなしに仕事に追われる妻に対し、夫のペリーはどこか妻とのすれ違いを感じていた。ディナーの最中、仕事で出ていった妻に対し、取り残されたペリーは同じレストランの奥で飲んでいた男に声をかけられる。偶然知り合ったその男・ディマはロシアン・マフィアで、組織から抜けるため、あるUSBをMI6(イギリス秘密情報部)に渡してほしいと頼まれる。このことを機に、ペリーは国家を揺るがす大事件に巻き込まれてゆく。。ジョン・ル・カレの同名スパイ小説をユアン・マクレガー主演で映画化。監督は「ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ」のスザンナ・ホワイト。

ル・カレのスパイ小説は素晴らしい形で映画になることが多いですが、本作も、その華麗な映画化作品に加わるであろう一作。僕の中では2011年に公開された「裏切りのサーカス」がベストなのですが、それに負けないくらい高水準な出来の作品だと思います。スパイ映画といっても、本作は「ミッション・インポッシブル」や「キングスマン」のようなスパイ・アクション映画ではなく、人を欺き、欺かれの応酬で、サスペンスとしての面白さはもちろんのこと、人間の根底にある”信じる”という想いを問うというヒューマンドラマも要素も描き出す重厚な形のヒューマン・サスペンスになっているのです。あまり人が死ぬ映画は好きではないのですが、これだけ重厚なお話であれば、散っていく人々の姿も美しいと感じてしまうほど。重厚なブランデーの香りがしてきそうな、大人な味わいが堪能できる作品になっています。

本作でいいのが、強そうに見えて、実は内面はナイーブで、弱い男の本性みたいなところがしっかり描かれること。ステラン・スカルスガルド演じるディマは、その典型で家族という愛すべきものがあるが、それが弱みになる中、必死でそれを守る手段を考えていく。それをマクレガー演じるペリー夫婦が助けていくわけですが、彼らは弱いヒーローでありながら、ディマやその一家にとことん寄り添うことで、銃を持たないが、強いヒーローに変わっていくのです。この一見強くなさそうなペリーが最後の最後にはカッコよさを魅せるのが、またいいんです。MI-6のエージェント、ヘクターも同様の強さと弱さを併せ持つキャラクター。この3人の登場人物がドラマの中で火花をちらしながら、強さと弱さを影響し合いながら、見せていくところにドラマの面白さが出てくるのだと思います。

映画として素晴らしいのは、映像のロケーション。ディマとペリーが逃走していく中で、アルプスのロッジに身を隠すシーンや、ヘリコプターでの脱出など、パノラマ感で出る絵で本当にスクリーン映えがします。ただ、少し惜しいなと思うのが、ディマのキャラクターがやや一面的過ぎるかなということ。よく言えば、信念を曲げないという男なのかもしれないですが、彼がマフィアをどうして抜けたいと思ったのかが詳細に描かれれば、より深いキャラクター像になったかなと思います。

次回レビュー予定は、「ぼくのおじさん」です。

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