『バースデーカード』:映画作品としては小品感はあるが、どこまでも純粋な作り方に逆に力強さを感じる秀作!

バースデーカード

「バースデーカード」を観ました。

評価:★★★★

幼き頃、引っ込み思案でクラスのいじめっ子の前に、なかなか自分を出すことができなかった紀子。そんな紀子の傍には、いつも味方になってくれる優しい母・芳恵がいた。穏やかな父、純真爛漫な弟と、幸せな家庭に育ったいた紀子だが、優しかった母は紀子が10歳の時に病魔に冒され、他界してしまう。その10歳の誕生日に、余命いくばくもないと覚悟した母は、子供たちが20歳になるまで毎年手紙を送ると約束する。まもなくして母は他界するが、それから毎年、愛情のこもった芳恵からの手紙が届いてくる。。監督は「江ノ島プリズム」、「クジラのいた夏」の吉田康弘。

この映画を見る前に、同じように死者からの手紙ということで、「ある天文学者の恋文」という作品を観ていたので、本作で、なんとなく日本と欧米の死生観の違いみたいなものを感じてしまいました。前に違う映画の感想文で書いたかと思いますが、欧米人はどこか自分が死んだ後も、あの世で自分が続いていくという感覚があるのに対し、日本人というのは、自らの人生の終わりで、自分という人間がキッパリとなくなるという感覚を持っているように感じます。なので、「ある天文学者〜」では、自ら死んだ後の恋人の行く末をどこまでも計算づくで支える形の愛になっているのに対し、本作では、自分がこの世という舞台から降りている中で、遺された者へのアドバイスという形の愛になっている。だから、前者はまるで死んだものが生きているようなミステリアスな形にもなり得るのに対し、後者では「死んでまで、人生決められたくない」と台詞を遺された者が吐露するほど、生死に一定の線があるのです。どちらかがいい悪いとか、感覚の違いがどうのこうのではなく、これだけ作品の違いが出ているのが単純に面白いなと思いました。

と、いつも通り作品本流とは関係ない話を置いたところで、本作ですが、予告編でも見てとれるように、すごく純粋な作品になっています。本当にピュア過ぎるくらいにピュア。だけど、あり得ないとは思えなく、この美しいような人生の生き方や営みを、自分たちの生活の中でも感じたい、、と、そう思えてくるのです。吉田康弘監督は、「江ノ島プリズム」でも、「クジラのいた夏」でもそうでしたが、本当にまっすぐでピュアな直球を投げてくる。たとえが悪いかもしれないですが、それこそ野球で言うと、日本ハムの大谷選手がとことん野球にピュアで美しいのが、自らのパワーとなっているのと同じように、吉田監督の作品では、嘘のないピュアさが作品の力強さになっているのです。これは凄い。

これだけ純真な作品だと、演じる役者も相当大変ですが、キャスティングも誰もこれも笑顔が素敵に映る役者陣なので、作品の雰囲気が一層盛り上がる。母親・芳恵役の宮崎あおいは、そういう美しさのパワーを持っているのは周知の事実だと思いますが、意外に主役をやっている橋本愛が母の手紙によって、いろいろぶつかりながらも美しさを内に秘め、それがラストのウェディングシーンで一気に花咲いてくるのも見事(もちろん、子役の子から一貫して、その過程を魅せる監督の力量も素晴らしいですが)。そして、重要なのが狂言回しともなる父親、弟の役割を、ユースケ・サンタマリア、須賀健太の美しき三枚目っぷりで魅せてくれること。須賀健太は個人的には久しぶりにスクリーンで見た(ティーン映画にはたくさん出演しているみたいですが。)のですが、子役から大人の役柄にいい形で成長していることを感じました。こういう家族っていいなーと思える像を、役者陣がしっかり作っていることが、本作が成功しているの一番のポイントだと思います。

次回レビュー予定は、「金メダル男」です。

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