『ブリッジ・オブ・スパイ』:新しい挑戦は新鮮だが、スピルバーグも並の監督になった感

ブリッジ・オブ・スパイ

「ブリッジ・オブ・スパイ」を観ました。

評価:★★★☆

スピルバーグ監督&コーエン兄弟脚本とトム・ハンクス主演という一頃のところなら、ビッグネーム揃いがタッグを組んだ本作は、昨年からずっーと続いている昨今人気なスパイもの。ただ、「007 スペクター」「キングスマン」などのスパイアクションものが多かったのに対し、本作は「裏切りのサーカス」のような本来の諜報活動員という言葉に根ざしたようなじっくりとしたスパイもの。ただ、ミステリーの要素が少し少なく、どちらかというとスパイという職業に身を投じた人物+その周りで関係していた人物によるヒューマンドラマになっています。

本作の舞台は米ソ冷戦下の1960年。主役となっているトム・ハンクス演じるのは、交通事故の保険調停などを主にじっくりとしたキャリアを積み重ねてきた弁護士ジェームズ・ドノバン。彼は突然CIAの指名により、アメリカ国内で囚われたソ連側の1人のスパイの諜報活動容疑の弁護をすることになる。CIAも、アメリカ国民も、当然の有罪判決を求め、形だけの裁判弁護士となるはずが、本来の弁護士としての使命に立ち返り、スパイの身柄を全力で確保しようと務めていく。世間からの激しい批判を受けながらも、やがてアメリカの諜報員がソ連に拿捕されたことにより、事態は急展開。ドノバンはまさに冷戦最前線への過酷な道に踏み出すことを余儀なくされていく。

本作の魅力は、何といってもスピルバーグらしいヒューマンタッチのドラマに、コーエン兄弟の脚本らしい、冷戦の最前線・東西ドイツを舞台にしたスパイ交換劇の波乱に満ちたサスペンス描写のミクスチャーがうまく成功していることでしょう。やはり、監督はスピルバーグ、おまけに主演はスピルバーグ作品にも過去何度も登場しているトム・ハンクスだけあって、スピルバーグ色はかなり強いものの、スパイ劇という要素が大胆に加わっていることで、作品にいい変化がもたらされていると感じます。それが象徴されているのが、中盤からラストにかけたアメリカから東西ドイツに舞台を移した場面。東ドイツの描写がとことん極寒なフレーミング色で進むところや、国境を越える人々を列車から捉える動きのある俯瞰シーンなど意欲的な部分などは、常に新しさに挑戦しているスピルバーグの偉大な部分だと感じます。

でも、「バードマン」のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督や、「インターステラー」のクリストファー・ノーラン監督など、ここ数年で力を大きく伸ばしている若手監督を見ると、やはりスピルバーグというのは1980〜90年代の監督だなーという感じがします。ベテランらしい安定感はあるものの、何度も鑑賞経験したような独特のヒューマン過ぎるタッチ(笑)や、彼の永遠のテーマにもしている失われた父性についても、本作の特にラストシーンに感じ、新鮮味というのには多少欠けるのも事実。実際に、日本での興行的にも、スピルバーグ作品として重宝されて最後に盛り上がった感があるのは、2005年の「宇宙戦争」のときまで遡らないといけないくらいかなと思います。スピルバーグ監督だからという別格感はそこにはなく、他の多くの映画監督と同じような扱いに(日本で)なっているのが、少々寂しい気がします。

次回レビュー予定は、「パディントン」です。

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