『人生の約束』:映画としては惜しい面が多々あるが、最後の祭りのシーンは必見!!

人生の約束

「人生の約束」を観ました。

評価:★★★

「池中玄太80キロ」シリーズなど、長年テレビの世界で演出を手がけてきた石橋冠が初の映画監督として手がけた作品。さすがにテレビ界で55年というキャリアを誇っている監督さんだけに出演陣が豪華そのもの。主演は竹野内豊、共演陣にも西田敏行、江口洋介、柄本明に、優香に、松坂桃李に、小池栄子に、室井滋に、ビートたけしにと、映画としては主役級を張れる人間までもがチョイ役で出演してくるという豪華さ。僕は最初、なぜこの映画に、これだけの凄いキャストが集まってくるのかが分かりませんでしたが、冒頭のような背景があったのですね。さすがに長く人間ドラマを手がけてきた監督さんだけに、映画としても独特の味を持った作品になっています。

僕も子どもの頃に、「池中玄太」シリーズの再々放送くらいを夕方のテレビドラマ・ラッシュアワー時間帯に見ていた世代。オンタイムではないですが、コメディタッチながらも人間の持っている愛くるしさを描いている、このシリーズはとても好きな作品であったことをぼんやりと覚えています。本作も、そういう味がよく出ていて、各キャラクターの台詞1つ1つが非常にセンスがあって、それを力が持った役者さんが演じるので面白くないはずがありません。ただ、残念ながら、積み上げるドラマには丹念なものを感じるもの、映画らしいドラマチックな展開というのが皆無なのが気になるところ。少し致命的に感じるのが、竹野内豊演じる売上重視のITベンチャー社長・中原に対し、彼とともに会社を立ち上げながら、経営姿勢に離反していった旧友・塩谷の考えや想いというのが今ひとつ見えない点。この塩谷の死によって、中原の人生が大きく変わっていくことになるのですが、その動機付けがどうしても弱いのです。

面白いのは、この旧友・中原は「桐島、部活やめるってよ」の桐島と同じように、この旧友も映画本編には一切姿としては登場しないキャラクターとなっているところ。しかし、桐島の場合は高校生活の中で、よく登場しそうな学校の花形スターとしての一面を誰しもが想像できたからこそ、彼が登場しなくても物語の軸として、作品に登場している人物を回していけるだけのパワーがあった。対して、本作の塩谷は会社を追われ、終の住み処として、富山に帰ってきたことは理解できても、彼が富山にいたときにどんな人物であったのかがイマイチ伝わらないし、彼が祭りにどういう想いを向けていたのかも分かりづらい。一番謎なのは、その塩谷の想いを、なぜ中原が継がなければならないのかというところ。こう感じてしまうのも、塩谷と中原との関係がイマイチ見えないことにもあるのかもしれません。

そうした物語の裏側がきちんと伝わってこないのは残念ですが、映画として表面的に見えている部分は文句のつけようがないくらい。若干、竹野内豊と江口洋介は配役を逆にしたほうがしっくりくるようにも思いますが、シークエンスごとの会話劇は流石だし、映像の中でキーとなるものをしっかり追っていく構図も見事。特に、感動するのはラストの祭りのシーン。この映画は、ここだけ切り取って見ても、なぜか泣けるくらいに感動できる。日本の祭りの美しさは、そこに生きる人たちの想いや団結力をすごく表現しているし、夜の暗闇と山車の提灯の仄かな灯りの集まりが、スクリーンにパッと映しだされるだけで、もう絵になってしまうのです。本当に不思議と涙が出てきてしまいました。この映画は、これを観るだけでも凄く価値のある作品になっているのです。

次回レビュー予定は、「ブリッジ・オブ・スパイ」です。

コメントを残す