『ハドソン川の奇跡』:一大航空事故を奇跡に変えた男。事故中心の難しいネタを、よくぞここまで魅せる映画にした!

ハドソン川の奇跡

「ハドソン川の奇跡」を観ました。

評価:★★★★

2009年1月15日。160万人が住む極寒のニューヨーク上空で、一機の旅客機が突如全てのエンジンが航行不能となる航空事故が発生する。航空機の機長サレンバーガーは、必死の操縦で70トンものある機体をハドソン川に無事不時着させる。後に、「ハドソン川の奇跡」と呼ばれたこの航空機事故により、サレンバーガーは世間からの称賛の的となる。しかし、それとは裏腹に、国家運輸安全委員会では厳しい追及を受けるのだった。。サレンバーガー機長自身の手記『機長、究極の決断 「ハドソン川」の奇跡』を、「アメリカン・スナイパー」のクリント・イーストウッドがトム・ハンクスを主演に迎えて映画化した作品。

世界中をニュースが駆け回るグローバル時代の昨今において、2009年にアメリカから伝わった、このニュースに関しては印象に残っている人も多いことでしょう。しかし、これほどワールドワイドになったとはいえども、この事故の詳細はどうだったのか、事故の余波というものがどのようなものであったのか、後日談としてどういうことがあったのか、、というのは、日本に住んでいる日本人にはなかなか知ることがなかったのが大半だったと思います。僕自身も、9.11以降で航空機の飛行が一段とシビアになっているニューヨークにおいて、テロとは別に、航空機の一大惨事となりそうなところを、機長の機転で奇跡を起こせてみてた、、めでたしめでたしなのね、、という印象しかなかったです。でも、事故そのものはどういう状況で起こったのか、事故後の調査と安全委員会でどのようなことが話し合われたのか、、その内幕がよく分かるドラマになっています。

日本でも、危機回避というのをどのように行うのか、、というのはトレーニングされることが多いことです。でも、一般市民だったら年1回あるかないかの防災訓練や、車を運転される方なら危機回避のトレーニングくらいがせいぜいなところでしょう。「アポロ13」のような宇宙開発ものを見ても分かるのですが、実際に秒単位で危機を回避しないといけない状況に陥ったときに、どのような回避手段があるか、現在の状況を逐一把握して、落ち着いて分析し、決めた意思決定をもとに素早く行動に移す。それはあらゆるシチュエーションを想定し、操作としても、精神的な部分に関しても、トレーニングしたゆえの賜物というところなのでしょう。作品中でも事故直後の様子が再現されますが、副操縦士やアテンダント、そして乗客も含め、全てがチームとして冷静に動けたところに”奇跡”が起こったのだということがよく分かります。これがAI(人工知能)のような機械だったら、どういう判断を下せたのか、、物語とも少し絡みますが、こういうところも想像してみると面白いかもしれません。

といいつつも、本作は酷く映画化しにくい素材だということが観ていてよく分かります。僕はヒーローとして祭り上げられた機長の裏に何かドラマがある作品かと思いましたが、あくまで焦点が当たるのは”事故”そのものの検証にすぎず、機長や他のクルーの印象は序盤から終始変わらないのです。ヒーローを賞賛するだけなら、TVのドキュメンタリーでもやりそうなネタなんですが、乗客のドラマや、安全委員会での展開をサスペンスフルにして、最大限まで劇映画として見栄えがするまで、よく膨らませたと思います。これぞ、イーストウッド監督の腕の凄さが分かる作品になっていると思います。

次回レビュー予定は、「リトル・ボーイ 小さなボクの戦争」です。

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