『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』:どんな逆境も、不遇の時代をも負けずに、自分の仕事をし続けた孤高のヒーロー!

トランボ

「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」を観ました。

評価:★★★★★

“赤狩り”の嵐吹き荒れる1950年代。スタジオも大きくなり、繁栄を極めていくハリウッドにおいても、その影響が顕著になってくる。盛り上がる映画業界を尻目に、作品で主要な役割を演じる立場でありながら、労働的に過酷を極めた脚本家や俳優を守る組合が組織されていく。その中心となっていた、人気脚本家ダルトン・トランボは下院非米活動委員会への協力を拒否したばかりに、投獄される羽目になる。釈放された後も、トランボはハリウッドを追放されることになるのだが……。偽名で「ローマの休日」などの脚本を執筆し、アカデミー賞を2度も受賞したダルトン・トランボの生涯を描いた伝記ドラマ。

ハリウッドにおける”赤狩り”問題は、業界全体を通して、今でも内省的にならざるを得ない汚点でもあるのでしょう。今でこそリベラル派が多数を占めるハリウッドですが、その時代からおよそ半世紀経った今でもこういう映画ができてくるのが、その象徴ではないかと思います。共産主義者のみならず、共産主義に準じるようなリベラルな政治活動をしていなくても、名指しされれば逮捕されるだけでなく、業界からも完全に閉めだされた時代。いくら冷戦真っ只中であろうとも、思想が違うというだけで弾圧を加えることは、どの時代でもあってはならないこと。僕自身もそうしたことはあったとは知っていたものの、当時のハリウッドがどういうパワーバランスのうえで成り立っていて、そのうえでどういう経過をたどっていったのかを知らなかったので、(トランボという人物周りのことに限定されるとはいえども)当時の世相や業界がどのような形で推移していったのかを知ることができます。古き良き時代で活躍したスターなり、あの名作の裏側で、こういう歴史が動いていたのは、単純にバックグラウンドストーリーとして知れる楽しみが本作にはあります。「ローマの休日」のみならず、「スパルタカス」や、「栄光への脱出」などがこういう形でできてきたんだーと、知ることができて、一映画ファンとしてすごく面白かったです。

それに何といっても、このダルトン・トランボという人物がカッコ良すぎます。俺には脚本を書くことしかない、そのためなら例え業界を閉めだされたとしても、ただ書き続けるだけだ!! こういう姿勢が仕事人としてすごくカッコいいのです。そんなダルトンに私欲のために協力したB級映画製作会社のフランク兄弟の存在があり、クズみたいなB級、C級作品でも、大量に脚本を仕立てていく。そうした仕事の中でも自分の流儀を貫き、寝る間を惜しむような金を稼ぐだけの仕事の中に、「黒い牡牛」などの本当に描きたい作品をも温めて作っていく。どんな不遇な状況の中でも、常に前を向いて、自らできることをひたすらやっていく彼のパワフルさは(単純な言葉ですが)見習いたいの一言です。ただ、そうした猪突猛進な彼でも一人だけでは仕事はできない。彼を支え、ときに叱咤する家族があり、フランク兄弟のような協力者がいて、周りでも支える仲間たちがいる。不遇な時代には少なかった仲間も、彼の一流の腕を知る一流人たちによって、次第に見出されていくドラマ過程も爽快の一言。働くことが好きな社会人には、是非観て欲しいと思います。

トランボを演じたブライアン・クランストンも見事の一言。風呂場でも書き続ける姿もいいですが、成長した娘の前に、ションボリと謝りにいく姿のほうがトランボの愛らしさみたいなものが出て、これがまたいいんです(彼は、本作で第88回アカデミー賞主演男優賞ノミネート)。ヘレン・ミレン演じるヘッダー・ホッパーの悪女っぷりも、ジョン・グッドマン演じるフランク・キングの豪快っぷりも作品にとっては凄い華。また、「I am Sam アイ・アム・サム」、「SUPER8」などの作品で子役から着実に成長したエル・ファニングも、少ない登場シーンで強烈な娘ニコラ役の印象を与えてくれます。こうした役者陣の演技も見事な作品です。

次回レビュー予定は、「シン・ゴジラ」です。

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