「シングストリート 未来へのうた」を観ました。
評価:★★★★
14歳の多感な時期を迎えた少年コナーは、街で見かけて一目惚れしたラフィナに、自分のバンドのPVに出ないかと口走ってしまう。バンドなど存在していない中、彼は慌ててメンバーを募ってバンドを組み、猛特訓を開始する。バンドメンバーは学校やコミュニティに馴染めない爪弾きものばかりだったが、やがて彼らのサウンドは皆の注目の的になっていく。。「ONCE ダブリンの街角で」、「はじまりのうた」など、音楽と映画のミクスチャーが楽しい作品を生み出すジョン・カーニー監督が、1980年代のダブリンを舞台に届ける半自伝的青春音楽映画となっています。
時代設定が1985年となっているので、この時期におけるバンドを組むという音楽活動は別にダサいものではなかったのだろうけど、このダブリンという街、そしてコナーの通う学校にとっては異色なものとして描かれています。これを現代で置き換えると、完全なギーク(オタク)映画の部類なのかなとも思えてきます。青春の衝動とばかりにコナーが組んだバンドのメンバーは、いろんな面で自らのサウンドやビジュアルにこだわる音楽オタクどもばかり。女の子を引っ掛けるためという浅はかな目的で組まれただけにも関わらず、彼らの個性やこだわりっぷり、そしてコナーの兄の絶妙なバンド指導によって、バンド自体がいい味を出してくるのです。そんな彼らの青春は徐々にバンド一色になっていく。学校や世間はイジメや不和ばかりで目を背けたくなるけど、バンドだけは鳥の巣のように居心地のよい空間になっていく。青春時代にはこういう居場所が必要ですよね。ここで彼らが生きていくベースができていくのです。
いいのは、最初は大人のような存在に思えたラフィナとコナーの関係が、バンドの成長とともに逆転してくるところ。バンド活動を通じて、知らない間にコナーのほうが大人になっていき、逆にラフィナの存在が幼く可愛いものに見えてくるのがいい。作品の前半と後半の男女のパワーバランスがいい具合で逆転することで、ラストの逃避行の部分が活きてくるのです。居心地のよいバンドだからといって、そこに留まらず、人生の通過点としていくコナーの姿も頼もしく映ります。まさに青春時代を疾走していく中で、誰もが遭遇するであろう場所を描くことで、青春の愛おしさみたいなものに胸がキュンキュンとしまうのです。作品を彩る音楽も素晴らしいの一言。大物俳優が出ない作品ではありますが、前作の「はじまりのうた」より、こうした小品を美しく描くことができるのが、カーニー監督の持ち味ではないかと思うのです。
次回レビュー予定は、「ファインディング・ドリー」です。