『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』:あの名作を意識させることで、より作品の価値を高めているという不思議な傑作!

ロイヤル・ナイト

「ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出」を観ました。

評価:★★★★★

1945年5月8日、長く続いた第二次世界大戦のヨーロッパ戦勝記念日の夜、エリザベス王女と妹マーガレットがお忍びで外出したという史実に基づくドラマ。王宮の外に出たマーガレットは、付き添いが目を離した隙にバスに飛び乗る。慌てて彼女を追って街に出たエリザベスは、人生を変える長い一夜を過ごすことになるのだが。。監督は、「キンキーブーツ」のジュリアン・ジャロルド。

劇場公開終了の結構ギリギリで観たのですが、これは劇場で観て良かったと素直に思える作品。予告編を観ると、あの名作「ローマの休日」になぞらえたお話(ただ作品の着想は、この史実を元にしているとか、、)と思いがちですが、本作は逆に、「ローマの休日」を意識させることによって、それ以上の味わいを魅せるという頭の良い脚色をしているのです。「ローマの休日」は十数年前に劇場でデジタル・リマスター版が公開になったときに拝見しましたが、どちらかと言うと、毎日の平々凡々な公務に嫌気がさした少女である王女が、お忍びで外出し、グレゴリー・ペック演じる新聞記者に出会い、様々な出来事から叶わぬ恋心を芽生えることで、少女からレディに変身していくという形のお話でした。ラブコメでも、ラブロメの王道とも言える作り方は、ローマという都市を舞台にしていることもあって、比較的華やいだ明るい雰囲気の作品ということも頭に残っています。

しかし、本作はそうした「ローマの休日」とは全く別の色合いを持っています。エリザベスとマーガレットが、ぬけ出すチャンスを狙って、戦勝記念というイベントを利用して外出にこぎつけるところまでは、「ローマの休日」と一緒の雰囲気ではあるものの、舞台は第二次世界大戦終了直後のロンドン。人々は戦勝に浮かれるもの、それは明るいというよりは地獄の日々から抜けた喧騒ともいえる高揚感に過ぎない。ふと街を見渡せば、戦争の爪あとで荒廃しているロンドンがあり、帰還兵たちの心もどこかうつろ。戦争には勝ったものの、空襲による被害や戦争が残した心の傷まで覆い隠すことはできない。そうした明るくも、何か出口が見えない人々の心を、外出をしていくマーガレットは徐々に知っていくのです。そうした暗い気持ちの中で人々に勇気と希望をもたらすものとは何か。王室公務をどこか心の中で疎ましく思っていたエリザベスの心の中に、何かしらしっかりとした幹ができてくるのが分かるのです。

基本はマーガレットが行方不明になり、ドタバタの中でエリザベスがロンドンの街を疾走していく形は、コメディチックに描かれていて、街は暗くとも物語は暗くなっていないのはさすが。王女と新聞記者との恋は、本作では王女と帰還兵という形になっていますが、この2人の関係が単純な色恋の話ではなく、エリザベスが知らない世相というものを、帰還兵ジャックが自らの物語によって導くような形になっています。2人の想いというのが、恋なのか、同志愛みたいなものなのか、最後の最後まで明かさないところも作品としてキュートな部分。冒頭では、宮殿の中で囲われて育ったウブな少女に過ぎなかったエリザベスが、最後には現在のようにイギリスを引っ張る女王の威厳をつけていこうとしていることがよく分かるのです。ちょうど今夏(2016年)は、天皇の生前退位の話題で、天皇の在り方というものを考えさせられた日本人には、本作を是非観て、何かを感じ取ってほしいと思います。

次回レビュー予定は、「フレンツェ、メディチ家の至宝 ウフィツィ美術館3D」です。

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