『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』:ムーアの全盛期のようなヤンチャぶりはないが、成熟した彼の面白さは確実にある作品!

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」を観ました。

評価:★★★

「ボウリング・フォー・コロンバイン」で世界に一撃を加えたリベラリスト、マイケル・ムーア監督による世界侵略をテーマとしたドキュメンタリー。とはいっても、仮想的にアメリカ国防総省から世界を侵略するために相談を受けたムーアという設定のもと、侵略者として、ヨーロッパ各国に向かい、各国に存在してアメリカに無いものを奪ってくるという設定。そこで侵略する国に存在する“あるモノ”を略奪してくるのだが。。。

マイケル・ムーアが銃規制を厳しく批判し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した「ボウリング・フォー・コロンバイン」が公開されたのが2002年、ブッシュ大統領を批判した「華氏911」が2004年、アメリカの医療政策を深く批判した「シッコ」が2007年、そこから映画界からは突如名前を効かなくなって久しいですが(もしくは、単純に日本公開の作品がなかっただけかもしれないですが)、そのムーアが2009年の「キャピタリズム マネーは踊る」以来7年ぶりにスクリーンに登場したのが本作。長髪になり、少しスリム!?にもなったムーアが、独特のパフォーマンスで世界侵略というトンデモテーマで切り込んでいくという設定は従来と変わりはないのですが、中身の味わいが加齢のせいか、だいぶ滑らかというか、大人しいものになったと思います。「華氏911」の頃などはあからさまに議会や議員公邸まで乗り込む姿勢を見せた、パフォーマンス性というのがウリでしたが、本作では彼はスクリーンには姿を見せるものの、予め設定された舞台の上に登場するに過ぎません。ドキュメンタリーのシナリオとしては、”世界戦略”という寓話性と、各国を繋ぐテーマ構成などなかなかですが、全盛だった頃の暴れん坊ぶりは全く観られなくなりました。

彼の暴れん坊ぶりがないのを整理されたと見るか、物足りないと見るかは甲乙分かれるところですが、僕は彼独自の目線というか、映像の構成も含めて、ドキュメンタリーという平板な形になりがちなものを、テーマ性で何倍も面白く魅せる姿勢というのはなかなかだと思います。ただ、麻薬を許される国とか、囚人に自由を与える国とか、休暇に重点を置く国とか、、、ヨーロッパの各国の特徴というのはとても既知なことで、目新しさというのが希薄なのが残念なところ。その中でも唯一知らないお話として、面白かったのは、日本を超えた教育水準(学習点数)の高さを見せるフィンランドが、義務教育下で全く宿題を出さないというというところに凄い驚きを感じました。フィンランドは宿題という課題ではなく、子どもたちの遊びを、大人たちもビックリするほど真剣にやるところから、学ぶことの面白さを見出すことに主眼を置いているのです。子どもたちが高度に”遊び”に熱中できる環境を作る。好奇心を育成することが、意欲的に学習していくということを彼らは知っているのです。このことは日本も素直に学ばなければならないでしょう。思えば、こういうお話に触れる映画の楽しさ自体も、ムーア自身が好奇心を、アメリカに、そして観客に提供している計算の内なのかもしれません。

次回レビュー予定は、「セトウツミ」です。

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