『夏美のホタル』:日本の夏にピッタリな、心の交流を描いた物語!

夏美のホタル

「夏美のホタル」を観ました。

評価:★★★

「ふしぎな岬の物語」で人のつながりを描いた、原作者・森沢明夫の小説を映画化。写真家になる夢を持ちながらも、将来への漠然とした不安を抱える河合夏美。彼女は同じく写真に夢を追いながらも、その限界をも感じつつある恋人との漫然とした関係にもイラ立ちながら、亡き父の背中を追い、カメラ1つをもって旅に出る・・・。主演は、映画やTVドラマでも活躍の場を多数作っている有村架純。監督は「ストロボ・エッジ」でも、有村と組んだ廣木隆一。

この映画の感想には相応しくないかもしれないですが、日本人の人情劇というのは”夏”という季節にピッタリ合うのではないかと思っています。お盆という、亡くなった人との心の交流というのを1つのイベントとしている夏だからこそ、現世を生きる私たちのつながりはもとい、亡くなった人との心のつながりをも持ち、その関係の中で自分を位置づけていく。人に生かされるという感覚をもつ日本人ならではのドラマこそ、この夏のいう時期に描くにピッタリという感じがあるのです。本作でも、主人公・夏美の父親は死んで不在という設定から始まります。その死自体に大きなミステリーがあるわけではなく、夏美自身が父の影を追いながら、父が抱えた想いを受け継ぐことで、明日へと生きていく糧を得ていくという形のドラマへとなっていくのです。

本作で素敵なのは、そうした迷える夏美の想いを、しがない商店の店主・恵三が受け止めるところにあるのです。その恵三は近所の子どもたちに”地蔵さん”として慕われながらも、自分の心の中では大きな空虚感を抱えながら生きている。それを支える母がいて、子どもたちがいてこそ、恵三の生活は成り立っている。夏美を導くような存在である彼も、実はいろんな人々によって生かされているのです。人は決して1人では生きていない。1人で生きていると思うことは傲慢という考え方がインドにはあるそうなのですが、まさにそれを日本人らしい目線で描いているドラマともいえるでしょう。「ふしぎな岬の物語」も、いろんな人の支えあいのお話でしたが、本作のほうがより人とのつながりが鮮明に描かれている良作だと思います。お話が小さく収まりすぎていることが少々難ではありますが、田舎の夏らしい景観も見事なので、夏にうってつけな作品だと思います。

次回レビュー予定は、「マネーモンスター」です。

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