『ヒメアノ~ル』:人が人を殺してしまえるように、人は純粋にもあり続けれる可能性をも描いた作品!

ヒメアノ~ル

「ヒメアノ~ル」を観ました。

評価:★★★

若者の日常と殺人鬼の狂気を並行して語る、古谷実の同名コミックを映画化した作品。清掃会社で働く岡田は、同僚の安藤が想いを寄せる女性の働くカフェで、高校の同級生・森田と偶然再会する。森田が彼女をストーキングしているのではないかと思った岡田は、森田に対して不穏な気持ちを抱いていくのだが・・・。監督は、「銀の匙 SliverSpoon」などのコミック作品の映画化に定評がある吉田恵輔。

この作品、原作は未読ですが、予告編の雰囲気と吉田監督の過去作品(「銀の匙 SliverSpoon」や「ばしゃ馬さんとビッグマウス」)で描いてきた、物語のコミカルさとキャラクターの心情描写の上手さに惹かれていたこともあり、鑑賞となりました。予告編でコメディと無差別殺人が同居するという作品構成をどのようにしていくかというところと、殺人描写の残虐性というところに若干の不安を覚えたのですが、確かに殺人描写は多いものの、後を引くような不味さというのはあまり感じられませんでした。むしろ本作で浮き彫りにしたいのは、岡田と森田の友情という部分。それがどこで違えたところで、岡田の取り立てて何も起こらない平凡人の日常と、森田の殺人と犯罪を繰り返す非凡な日常と分けるのかという一点に絞っていきます。友情の深さというのは人によって様々だと思いますが、岡田が森田を最後の最後で救い出すのは、それこそ血生臭いまでの人としての絆というところに尽きるのは、(無茶苦茶なラストではありながら)、妙に人間性を感じる帰結であったりもします。

それにしても、後半の描写はちょっと目を背けたくなるような殺人描写が連続します。人は簡単には死なないようで、実は簡単に死んでしまう。ちょうど、この感想文を書いているときには相模原連続殺傷事件が起きてしまいましたが、十数人の命が一人の男によっても奪われるです。本作でも見て取れるように、人を殺すというのは、単純にそこにいた人の存在を消してしまうだけのように簡単に起こせてしまうことが、実は本当に恐ろしいことであることがジワジワと見終わった後に感じ取ることができます。だからこそ、平凡で笑いが多い岡田の人生が、本当に平凡過ぎる幸せに包まれて見えるのです。人を狂気に駆り立てるのは、本当に簡単なこと。人が人を殺してしまえることと同じように、人自身はピュアでもあり続けれるという希望を描いた作品でもあるのです。

次回レビュー予定は、「夏美のホタル」です。

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