『すれ違いのダイアリーズ』:久々観たタイ映画はラブ・ロマンスとしても、教育映画としても、映画らしい演出も見事に決まった快作!

すれ違いのダイアリーズ

「すれ違いのダイアリーズ」を観ました。

評価:★★★★★

美しいタイの水辺の大自然の中で、時をまたいで、男性と女性のそれぞれ1人の教師が子どもたちの教育に獅子奮闘していく様を描いた作品。僕は最初、日記が時をまたいで繋ぐSFのようなガジェットになっていて、「イルマーレ」のような、ファンタジックな作品かと思いましたが、最初に女性教師が紡いだ日記を追う形で、男性教師が日記を通じて恋に落ちていく物語となっています。製作は少し古くて2014年。同年の東京国際映画祭でも違う名前で上映されていたようです。満を持する形で、今年日本でも一般公開されることになりました。監督は、「フェーンチャン ぼくの恋人」(03)の共同監督を務めた二ティワット・タラトーン。

タイ映画となると、前に見たのは「アタック・ナンバーハーフ」(2000年)なので、もうだいぶ前。タイ語の響きって、少し独特で、韓国や中国辺りのキツいアクセントがなく、どこか日本語にも通じるナチュラルな響きをしているので、あまり外国映画として意識せずに見ることができるのがいいですね。それにラブ・ロマンスとしても、教師を主人公とした教育ムービーとしても、そして、映画らしいドラマチックな展開としても、全てがいい要素で詰まっています。ややラブドラマとしては、韓国映画っぽくなくはないですが、コミカルな主人公に仕立てながらも、展開をあまりにドラマチックにしないところも日本人好みなところではないでしょうか。なかなかラブ・ロマンスに★5つの評価はしないのですが、主人公の2人が全く会うことがなく、ただただ日記を通じて心がつながっていくことの胸キュン度合いといったら、、、もう心がホッコリとしてくるのです。

それに映画らしい展開も見事。ネタバレは避けますが、生徒の1人が「電車を見たことがない」という言葉に、主人公のソーンが電車を見せるところが凄くいい。それが映えるのが、子どもたちと一緒に過ごす教室というのが、タイの自然美が溢れる水辺の美しい風景だから、そこにああいうカメラワークで”動く絵”が入ると一層ドラマティカルになるのです。この電車というキーワードが、ラストのラストで伏線として活きてくる妙も魅せる。シークエンスごとでは、子どもたちを勝手に動かしているように見せて、全体としては計算高くお話も詰めていることも見事なのです。

また、映画に華を添えるのが、子どもたちの屈託のない表情でしょう。もう、子役というのは、どこの国の作品でもレベルが高いのは言わずもながなのですが、本作の子どもたちも凄く子どもっぽく、そして時折垣間見せる、大人として成長していく姿にも心打たれるのです。特に、子どもたちが将来目指したいのは、親と同じ漁師という職業というところ。時代が移りゆくに当たり、地方の産業としての漁師というのは収入面からも将来性が見通せないのはタイでも同じ。だからこそ、子どもたちのために教育が必要なのです。それに奔走するソーンとエーンの2人の教師の姿もすごく考えさせられる。まさに、教育とな何かということも考えさせられる作品なのです。

まさに、この感想文を書いているときは初夏の暑くなっている時期。予告編を見ても分かる涼し気なタイの水辺を楽しむだけでも、これは映画館でこそ見るべき作品です。公開規模が小さいのが残念ですが、見れる機会があれば、観て欲しい秀作となっています。

次回レビュー予定は、「或る終焉」です。

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