『リリーのすべて』:映画の仕上がりは凄くいいが、肝心の魂が伝わってこない。。

リリーのすべて

「リリーのすべて」を観ました。

評価:★★☆

世界で初めて性転換適合手術を受けた女性(元は男性)アイナー・ヴェイナーの半生を、「英国王のスピーチ」、「レ・ミゼラブル」のトム・フーパー監督が描いた作品。ヴェイナーの妻であり、生涯のパートナーになるゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデル が本作で今年(2016年)のアカデミー賞助演女優賞を獲得しています。主演のレッドメインもさすがの演技で引き込まれる作品に仕上がっていると思います。

性転換手術は今の日本では行えませんが、性同一性障害を持ち、自分の元来持っている性と明らかに違うと判定された場合にのみ、性適合手術として行うことが可能となっています。性に関しては比較的オープンになった現代ではあっても、性を取り扱う問題となるとタブーがどうしてもつきまとう。それは社会的な認知ということも然ることながら、性を変える本人や家族の意思というところも非常にプライベートな問題になるし、単純に生物学的な性を変えるという施術自体もホルモンなどの身体の免疫バランスを大きく変えることになるので、副作用も大きい。それを20世紀の初頭で、しかも公にされている中では初の試みで行おうとしたことがドラマとなっていく要因となっているのです。

全体的に美しく、オシャレな形に仕上げられた作品だと思います。主役のアイナー(リリー)を演じるレッドメインの演技も、ゲルダを演じるヴィキャンデルの演技も、その他のキャラクターたちの描き込みもしっかりしている。全体的にいいんですが、、、なんか作品のパンチ力や力強さみたいなものが欠けるんですよね。これは同じレッドメイン主演の「博士と彼女のセオリー」でも感じたんですが、レッドメインの演技力やキャラクターへの化け方が凄くて、そこばかり目が行くから、何かしらドラマの核みたいなものが逆に見えづらくなっているのかなと思います。逆に、レッドメインの活かし方ということを考えると、彼が注目された同じフーパー監督の「レ・ミゼラブル」のように、作品全体のパワーが凄いものに対し、レッドメインのような軽妙な演技ができる人がアクセントとして加わるほうが、作品の中の役者の使い方という意味においても、より効果的なのかなと感じてしまう次第です。

音楽や絵画でもよくありますが、譜面通りに正確に演奏したり、表面上は凄い細かいテクニックや技法を使っていても、演者も含めた作品の良さがそれだけでは伝わらないのと同等な問題が、本作では起きているように思えてなりません。見た目はすごく綺麗で、いい作品なんですけどね。映画って、難しいですね(笑)。

次回レビュー予定は、「ロブスター」です。

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