『ロブスター』:素っ頓狂な世界観のようで、現代社会をアイロニックに表現している芸術作!

ロブスター

「ロブスター」を観ました。

評価:★★★☆

独り者はいずれ動物にさせられるという奇妙な世界を描く、ジャンルとしては近未来SFとなる作品。監督は、こうした奇妙な世界観で勝負し続けている、「籠の中の乙女」などの作品で知られるヨルゴス・ランティモス。設定は変ながら、第68回カンヌ国際映画祭の審査員賞も受賞しているところが凄いところでもあります。

近未来のどこかの社会。独身者は身柄を確保され、送られたホテルにて45日以内にパートナーを見つけなければ、自分が選択した動物にさせられてしまう。この映画の題名「ロブスター」とは、独り者の兄を犬に変えられたコリン・ファレル演じる主人公デヴィッドが、もし時間切れになったときに変られるために選択した動物。非情な世界だが、かといって、ホテルに連れてこられる人々はそれほど焦ってもいない様子。どこか冷静な空気が漂いながらも、それぞれの人生が悲観的に、そして悲劇的に過ぎていく。。

奇妙な世界観ながら、どこか納得させられてしまうのは、どこかしらこの冷酷な世界が現代をうまく、そしてアイロニックに表現しきっているからでしょう。単身世帯が増え、社会としては少子高齢化に突き進んでいっている昨今。結婚しろ、産めや増やせの社会の願望とは裏腹に、単身を楽しみ、周りと関わることをとことん避けている無縁社会も同時に広がっている現実。まさに、この映画に描かれることがそのまま現実として起こっているのです。

本作がいいのは、芸術作品として世の中の状況をうまく表現しているのと同時に、無感情に見えるキャラクターたちが抱える内面が、暴走していく行動とともに見えてくることでしょう。パートナーはいらないと思いながら、動物になりたくないという一心で戦略を立てる者。うまく結ばれながらも、仮面夫婦的な家族関係に身を崩壊していく者。独り身が構わないとクールを装いながら、期限が迫ると世の中を悲観する者。。そうしたいろいろな感情が、行動とともに表層化し、暴走化していく。これは凄い見ものです。この世界観をうまく納得できるかが好き嫌いが別れるポイントですが、一風変わった作品を見たい方にはオススメです。

次回レビュー予定は、「Mr.ホームズ 名探偵最後の事件」です。

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