『家族はつらいよ』:典型的な喜劇から一流の人情ドラマに変わる、映画のマジックを感じられる意欲作!

家族はつらいよ

「家族はつらいよ」を観ました。

評価:★★★★

「男はつらいよ」シリーズの監督とも知られる山田洋次が、約20年ぶりに手掛けた喜劇作品。僕は失礼ながら「男はつらいよ」は多分どのシリーズ作も1本も観たことがなく、喜劇作品といえば、「釣りバカ日誌」シリーズも山田洋次監督ではなかったかな、、と思ったのですが、「釣りバカ」は脚本くらいしか参加していなかったみたいですね。。1998年の「学校Ⅳ」くらいから、山田洋次作品はずっとスクリーンで観続けていますが、そういう意味では本作で初めて山田洋次監督の喜劇作品というのを味わいました。

ポスターを観ていて気付いた方もいるかと思いますが、メインの出演者8人が同じ山田洋次監督の2013年作品「東京家族」のメンバーになっているんですよね。各役者の役柄は若干違うものの、配役や各キャラクターの構成は「東京家族」とほぼ同じ形を踏襲しています。「東京家族」は小津監督の「東京物語」になぞらえたように、今では廃れつつある”家族”の形を炙り出す桃源郷に挑んだ映画と評しましたが、本作の「家族はつらいよ」でも、この”家族”が大きなテーマになっていきます。ここで描かれる”家族”の姿は、「家族はつらいよ」のタイトル通りに、血のつながり、婚姻関係のつながりだけで集まっている家族に起こるめんどくさいことをコミカルに描いていくのです。職場関係や友人関係と違い、家族であることはいろいろとめんどくさいことが多い。辛いと思っても、なかなか辞めることができない関係。なんで、こんな家族でいるんだろうということを、隠居生活を送っていた夫婦の離婚の危機という1つの象徴的な事件をもとに描き出していきます。

僕がまず作品を観て驚いたのは、喜劇という形をすごく古めかしく描いていたことでしょう。「男はつらいよ」に馴染んでいた人には違和感はないのかもしれないですが、今時こういう喜劇を描く人は(失礼ながら)若い人にはいないんじゃないかと思います。この違和感をたどると、思ったことをすぐ口にするキャラクターや、コントばりに読める行動をしていく登場人物たちといったところで、これも昔ながらある日本式の喜劇の形。中年以上の人ならまだしも、こういう感覚が若い人に受け入れられるのかイマイチ疑問に思いながら観ていました。

ところが、、これが中盤にある家族会議の場面から急激にドラマが動いていくのです。前半は古典的な風情しか醸し出さなかった作品が、この中盤からいきなり動きがあるシーンに移り、それとともに前半に潜ませていたキャラクターの心情が一気にスクリーンから感じ取られるようになっていくのです。これはなかなか凄い。転換点となるのは、家族会議でのある事件をきっかけに、突然投げ込まれる孫たちの野球風景のインサート部分でしょう。これが今まで”めんどくさい家族”であったところから、”家族だから感じられる暖かみ”に一気に昇華されていくのです。それとともに後半は、まるで前半の”めんどくさい家族”の裏返しのようなシーンが次々と出ていく。これぞ、まるで映画のマジックともいえる山田洋次監督ならではの演出術なのです。

最後のシーンの味わいは、なぜか「東京家族」で感じたところに落ち着いていく。目的地に行く手段は電車と飛行機くらい違い、見える風景もぜんぜん違うのに、目的地の風景は何1つ変わらない。山田監督の映画に対する挑戦を感じる意欲作品です。

次回レビュー予定は、「僕だけがいない街」です。

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