『ヘイトフル・エイト』:タランティーノのおもてなしは感じるが、もう少し鬼気迫る迫力が欲しい

ヘイトフル・エイト

「ヘイトフル・エイト」を観ました。

評価:★★★

「レザボア・ドッグス」、「ジャンゴ 繋がれざる者」のクエンティン・タランティーノが南北戦争後アメリカの時代背景とともに描く、男女7人の密室ミステリー。密室ミステリーだといいながら、アガサ・クリスティのようなスマートな紳士ミステリーを想像したらしっぺ返しを食らいます(笑)。精巧な映像構成を使いながらも、最後の最後はお決まりともいえる血みどろの決死劇になっていくのは、如何にもタランティーノ作品らしい味わいを醸し出してくれる良作となっています。

本作を観ていると、タランティーノという人は本当に映画オタクであることがよく分かります。必要があまりないけど、大迫力の70㎜カメラで始まるオープニングは、一面の雪景色の中でゆっくりと静かに動いていく1つの駅馬車の後継から始まります。このオープニングだけ見ていても、ミステリー劇ということを知っている身としては、何かがこの後に起こりそうなゾクゾク感に身もだえしてくる感じがします。吹雪の中、それぞれの登場人物が雪山ロッジに集結してくるシーンもいい。密室劇自体は正直大したことはないのですが、ロッジという密室と、馬小屋、物置、地下などの外の空間を巧妙に使って、舞台の奥行き感を出してくるところが素敵だし、何よりも外の吹雪の寒さがカメラ越しにも伝わってくるような美しさが(何となく)あるのです。昔の西部劇などによく表現されていた、土臭さとか、風の強さ、暖炉や食べ物の温かみなど、自然の力や感覚というものをカメラを使って、うまく映像として映し出してくるのです。これは凄い。

それと対比となってくるのは、徐々に始まっていくロッジの中での死闘。それによって、流される”血の赤”というのが、自然の”雪の白”、”土やロッジの茶”などの色合いと対比されていく。こういう色味の構成も自然に、うまく作られていくのです。なので、3時間近い上映時間も、遅々として進みが遅い物語も全く気になってこないのです。物語の語り部が、こうして舞台をちゃんと用意してくれるからこそ、その中で起こる物語自体にちゃんと注目できるようになっている。これはタランティーノ流の映画接待術なのかもしれません。

ただ、この映画の惜しいところは、ミステリーとしてはそれなりにまとまっている以上の迫力を、その物語自体が醸し出せないところでしょうか。ラストのネタ晴らしのところは多少ビックリするし、誰が死闘を生き残っていくのか、、というのも気にはなってきますが、今までのタランティーノ作品に比べて熱中できる要素が1つ2つ抜けていると思うのです。タランティーノのこだわりは至る所に感じることはできるのですが、作品全体の迫力としては彼の腕からするともう少し出せたのではないかと思って仕方がありませんでした。

次回レビュー予定は、「ひつじのショーン スペシャル いたずらラマがやってきた!」です。

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