『ハッピーエンド』:豪華な邸宅に住む一家の文字通りな内部崩壊劇。ハネケならもっと突っ込んだ描写が観たかったというのが本音な作品。。

ハッピーエンド

「ハッピーエンド」を観ました。

評価:★★

瀟洒な邸宅で三世代同居しながらも、心はバラバラなブルジョワジーのロラン家。長年建築業を営んできた家長のジョルジュは高齢のため、引退。娘のアンヌが取引先銀行の敏腕弁護士を恋人に、ビジネスでも辣腕を奮っていた。しかし、専務であるアンヌの息子ピエールはビジネスに徹しきれないナイーヴな青年だった。また、アンヌの弟トマは家業を継がずに医師として働き、再婚した若い妻との間には息子のポールが誕生していた。そんな中、トマは離婚のため離れて暮らしていた娘エヴを、一緒に暮らそうと呼び寄せるのだった。豪華な邸宅に住みながらも、夕食時はSNSやメールで個々の鬱憤を晴らすロラン家はゆっくりと崩壊していくのだが。。ミヒャエル・ハネケの下、欧州の実力派俳優競演で綴る愛と死のドラマ。

ドイツの奇才ハネケの作品を鑑賞するのは、個人的には2009年の「白いリボン」以来。この人の印象というのは、ちょうど学生時代の2001年に観た「ピアニスト」が強くて、ラストシーンで本作でもアンヌ役で出演しているイザベル・ユペールが自分の胸にナイフと突きつけるシーンはすごく衝撃的でした。僕の中では、、ですけど、ハネケといえば、例えば、「心が痛い」とか、「頭がおかしくなりそう」などの身体に関する比喩表現をそのまま映像で見せてしまう衝撃というか、登場人物の心の苦しみを(バイオレンスとまでいかないまでも)過激な表現で直接的に見せてしまうところに凄さがあるのかなと思います。それに「隠された記憶」や「白いリボン」などでも、ヒッチコックばりに映像のトリックや、フィルターを巧みに使い分けて、キャラクターの心象を映像で表現したりもする。まさに身体の感覚と、映像の感覚にブリッジしてくるマジシャンである。そんな印象なのです。

そうしたアーティスト的な側面を知っていると、本作のハネケはちょっと物足りないかなという感じがします。巨大な邸宅に住むブルジョワな一家の内部崩壊劇なのですが、この物語設定がありがちなモノですし、建築業の羽振りの良さとは裏腹に、冒頭の建築現場の崩落事故が暗示するように、死や凶気が日常の中に至るところにつきまとっていく感も物語としては今一歩感が拭えません。その中で唯一救いかなと思うのは、群像劇スタイルの中でも、物語を牽引していく孫娘エヴの存在でしょうか。彼女も両親の離婚で振り回され、自分の気持ちもどこかフワフワしている危なげな現代っ子なのですが、老いて死にゆく立場であるジョルジュとの交流と彼の死へ向かう様から、何か生きることへのリアリティを感じたようなラストになっていたのは印象的でした。ただ、痛いほどのリアリストであるハネケには、もっとアクセルを踏み込む描写がほしいかなと思ってしまった一作です。

次回レビュー予定は、「坂道のアポロン」です。

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